僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「おおかた薬飲めば寝れるから大丈夫だとか言われたんだろ? まぁ間違ってないけど、それは睡眠を取るということに限った話だ」


……大丈夫なのは体だけだと、早坂先生は言ってるんだ。寝てるけど、精神的負担が消えるわけじゃないと。


「不眠症イコール全く眠れないってことじゃない。不眠症にはタイプがあって、凪は典型的な入眠障害で、中途覚醒もある。で、短型」

「短型?」


すかさず左隣のソファーに腰かける祠稀が疑問を投げかけると、早坂先生は説明を付け足す。


「短時間睡眠者のことだよ。逆の長時間睡眠者ってのもあるけど。凪はだいたい4時間寝ればいいほう。6時間以上はまず寝ない」


さらっと言う早坂先生だけど、思い当たる節はいくつかあった。凪は大概、誰よりも早く起きていたから。


「それ自体は珍しいことじゃないから、まあ置いといて」


考える暇も与えないほど、早坂先生は話を進めていく。


「凪もそうだったけど、本人が一睡もできないって言うのは嘘だよ。それは思い込みで勘違い。実際ちゃんと寝てるんだ。ただ、凪にはその意識や記憶がない」

「……は?」


どういうこと? 自分が寝てたって……凪には分からないの?


「実際は寝ていて身体的には健康なのに、本人は一睡もできなかったと信じ込んでるせいで、身体的に異常を起こす」

「ちょ、待て。意味分かんねぇよ。言ってることは分かっけど、寝てたっつう意識と記憶がないって……」

「ああ、これは知ってるだけでいいよ。そんな感覚、俺だって分かんないし」

「はぁ!?」


祠稀が面食らうのは当然だ。あたしだってビックリした……。


「それもまた置いといて。つまり今は何が言いたいかって、寝てるのに寝てないって感覚は危ないってこと」


……凪は、ずっとそんな感覚だってこと?

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