僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「睡眠の役割が何かって問いに確定された答えはないけど、君たちも感覚的に分かるでしょ。疲労回復とか、休息とか。それは寝てる間にストレスの原因である物質を除去したり、成長ホルモンの分泌とかがあるからだ」


それは分かる……肌荒れとか、クマができちゃうとかも成長ホルモンの関係なんだよね、確か。


「あの……風邪引いたりして普段より多く睡眠とるのは、寝てる間に免疫力が高まるとかそういうことですか……?」

「さすが、頭いいね。そういうこと」


じゃあ……凪ってどうなんだろう。風邪引いてるのなんて見たことないけど、よくダルいとか頭痛いとは言ってた。


「睡眠が大事だってのは分かっただろ? 俺が言いたかったのは、不眠症を甘くみるなってことと、怖いのは不眠が続くことの2つ」


テーブルに付いた両肘を片方外した早坂先生は、あたしたちを見る目だけは変えない。


見透かすように、試すような瞳は無条件に体を緊張させる。


「不眠が続くと心身共につらいし、体調が優れないから免疫力も低下する。心筋梗塞とか脳卒中とかの原因にもなるからね。不眠を放置なんてとんでもない」

「――…ならねぇだろ?」


少し掠れたような声で訊く祠稀と声の出ないあたしは、今までに何回同じ考えが頭によぎったんだろう。


そんなあたしたちを見て、早坂先生はやっと頬の筋肉を緩めた。


「そうならないように俺がいて、治療だってしてたんだよ」


そう聞いてほっとしたけれど、自分を責めたくなった。


……凪は、どんな気持ちであたしたちに不眠症だと笑って言ったんだろう。


「まあ……凪はそうなる確率は低いとは言っておくよ。眠剤が効かないわけじゃないから」

「……それ、その睡眠薬って危なくねぇの? 凪のヤツ、服用間違ってないとは言い切れないだろ」


ほんの僅かな時間、沈黙が空気を張り詰めたのは、凪がついこの前大量に服用したから。


あたしも彗も祠稀もきっと苦い顔をしたんだろうけど、「問題ない」と言った早坂先生の声は思いの外暗くなかった。
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