僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「何年か前に自殺に使われるのが流行ったから、悪いイメージが強く残ってるんだろうな。俺は服用守れとだけ言って、あえて凪に教えてないけど、寝酒より安全なんだよ、今時の眠剤って」
「そうなんですか……」
確かに、無意識によくないイメージは持ってたかもしれない。ドラマとかニュースでも、昔よく見た気がするけど……よく考えれば今はもっと別の……。
「凪が服用してるのも、今の主流でベンゾジアゼピン系。大量服用しても死ぬ確率はかなり低い。脳をごまかして内臓に負担かけるんだから、副作用はもちろんあるけど危ないもんじゃない。さっきも言ったけど、不眠を放置するよりマシだってことだよ」
「……ならいいけど」
絞り出すような声で祠稀が言い、あたしは早坂先生の言葉を頭の中で何度も繰り返した。
「そもそも不眠症は病気じゃないしね。頭痛と一緒だよ。症状であって病名じゃない」
ほぼあたしと祠稀に向けられていた早坂先生の視線が、俯いて聞いていた彗にちらりと移る。
「彗と……有須ちゃん?なら分かるでしょ。自傷と過食だっけ。どれも原因は心身の疲労で……なんて定義がある」
「――…」
背筋に戦慄が走るには、なぜだろう。体が硬直して目線が泳いでしまうのは、後悔や罪悪感があるから?
――違う、きっとそんな感情があったとしても別の感情のほうが大きい。
あたしも彗も、自分の心の病気は多少なり受け入れて乗り越えたのだから。
「……ここで、彗と有須の話を出す必要ってあんのか?」
何も言葉を出せずにいると、祠稀が少し不機嫌そうな声で言う。
「あくまで凪の話だけど、君たちに理解できる部分があるから言うんだ。……責めてなんかない」
「……大丈夫です。分かってますから」
何を?と聞かれたら、早坂先生が別に責めていないってことだ。
そして、そう口に出してくれる理由も分かってる。
「心の病気なんて言い方があるけど、俺はその言い方嫌いだね。人それぞれ原因が違うし、言われる本人の負担になることだって多い」