僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


“ふつう”って、なんだろうと思う。


……いじめられて、自分の何がダメなんだろうと失敗しながら理解して。あたしはもう一度自分をやり直すために、逃げるようにここへ来た。


いじめなどなくても、きっと人は教えられなくても“ふつう”を理解するんだ。


だけどきっと境界線は曖昧で、簡単に答えが出るものじゃないと分かってる。


世の中が決めた常識という枠に納まって、多かれ少なかれ自我を抑えながら生きる。


それが、ふつうなんだろうかとぼんやり思う。


自分の感性や自我が、世間一般の大多数より少数であればあるほど、ふつうから外れていくことも。


偏見。あたしはそれが、嫌いでもあり怖くもあるんだ。


心の病気だなんて言葉は、早坂先生の言うように負担でしかなかった。


自分は受け入れられたからいいけれど、他の人にはどう映る? 考えただけで、寒気がするの。


あたしを哀れに思ってる瞳を向けられたくはなかった。


自分で指を口に突っ込んで吐くことを、心の病気だと言われたくはなかった。


彗の自傷行為だって、あたしの神経性過食症だって。頭がおかしくて、心が弱いからで済まされる。


祠稀が纏める威光の存在だって、どれだけ価値のあるものか。


自分の全てが正しいとは思わない。ふつうだと言える自信だってないけれど、そう思っていたい。


人はみんなどこかおかしくて、それが個性なんだと、あたしは思いたいの。



「――…凪が、言ってたけど」


俯いていた顔を上げると、早坂先生は交互にあたしたち3人へ目を配る。


「凪から聞いてたんだよ、君たち3人のことはほぼ全部。だからその都度訊いたんだ。俺みたいにカウンセラーならともかく、中学までとはまるきり違う奴らとつるんで、少しは戸惑わないのかって」


……あ。

待って、言わないで。



『あたしは、みんなと真逆の人生だよ』


――凪は、平凡に生きてきたからこそ。決して幸せなだけではなかった自分とは、違う考えを持ってるんだ。


そうあたしと祠稀に思わせるために、凪はたくさん嘘をついていたのを知ってる。


だけど、凪の人生が平凡か平凡じゃないかなんて……きっと関係ない。

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