僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「生きたいって願望が人より少し屈折してるだけじゃんって、笑ってたよ」
それが、凪という子なんだ。
彗のリスカットの傷を、生きた証だと言った。そんな風に言ってもらえた彗は、あたしにも凪の言葉をくれた。
凪の今までの人生がどんなものだとしても、自分のためにあたしたちをそばに置いたとしても、そう言える思考が凪には元からあるんだ。
山のように嘘をつかれて、翻弄されて、ぼやけていた凪という女の子。早坂先生の言葉で、ハッキリしてしまった。
……ううん。前に、戻った。
あたしたちのような人間もいるんだって。弱くて、足掻くしかなくて、生きる気力を失って。それでも強く生きたくて、愛されたくて……。
生きていけると。生きてていいのだと。
必要とされていると。愛されていると。
そう思えるきっかけをくれたのは、あたしが憧れた女の子。彗にとっても、祠稀にとっても、代わりなどいない大切な女の子。
あたしを救ってくれたとか、そんな風に言わなくても、憧れや尊敬の感情を抜きにしたとしても。
あたしにとって凪は、大好きな友達だ。
「会いたいな……」
小さく呟いたあたしの声は、彗たちにも聞こえたと思う。
会って、話がしたい。怒って、泣いてもいいから。あたしより背の高い凪の正面から、無邪気な笑顔を見たい。
この8ヵ月、思い出し切れないほどの表情を見てきたけれど。今、名前を呼んで振り向く凪の表情は、笑顔であってほしかった。
「わっ!?」
突然ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられ、顔を上げると大きな手が目に入る。
「……祠稀」
乱れた髪を直しながら、その存在がとても心強いと思った。何も言わず微笑んだだけの祠稀はきっと、大丈夫だって言ってくれたんだ。
ぐっ背筋を伸ばして前を見る。そんなあたしと目が合ったのは、テーブルを挟んだ向こう側に腰掛ける彗だった。
一瞬ドキッとしたけど、微笑むことはできた。
祠稀がしてくれたように、彗にも大丈夫だよと伝わってほしくて。
――大丈夫。またすぐ、会えるよ。