僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……問題なさそうかな」
呟いた早坂先生を見ると、気が抜けたように後ろのソファーに凭れかかっている。見定めるような眼つきからも、鋭さが消えていた。
「最初のほうにも言ったけど、不眠症で多いのは実際に寝てても、本人にその意識や記憶がないんだ。本人が一睡もできなかったと思い込んでるせいで、身体的に異常を起こす」
早坂先生は僅かに間を置いてから、自分のこめかみを人差し指で差す。
「凪は、寝てたと思い込んでる。そう思えるように中学の内に改善したからな。眠剤で寝てる時は深い眠りは得られないけど、ちゃんと寝てたって思うことはできる」
「意識も記憶もない時間があるって気付いたら、凪は寝てたんだって思えるってことか?」
「まあ、そういうこと」
すっかり冷めきったであろう珈琲を飲む早坂先生。リビングには暖房機の稼働音と、秒針の音だけが響く。
「実際凪は、珍しいよ。不眠症だと認めて開き直ってるタイプだから、さほど深刻視するものではないんだけどね。じゃあなんで不眠症のあれこれを君たちに話したか、分かる?」
「「……」」
あたしたちが互いの顔を合わせないのは、早坂先生がソファーに凭れた時に気付いたから。
「探して見つけ出すことに必死で、その間、凪がどんな状態でいるか分かってないと思ったから話したんだよ。……分かったようだから、いいけどね」
「早く見つけろって急かしてるようなもんだろ」
気に食わないように鼻で笑う祠稀だけど、上等だと言ってるようにも聞こえた。
……早坂先生が話してくれてよかったと思う。
探して、見つけた先。何も知らなければ支えてあげられないから。凪がしんどくなった時に、気付いてあげられるから。
これから先の未来を凪と過ごすために、必要なものを知れてよかった。