僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「ま……よろしく頼むよ。君たちに任せたほうが、いいと思うし」


そう言った早坂先生の笑顔が力ないものだったから、ある考えが頭をよぎる。


「それはカウンセラーとして?」

「祠稀……っ」


まさか聞くなんて……いや、聞いてしまう性格だってことぐらい知ってるけど。


「さぁね」


寂しいような、苦しいような、そんな笑顔の早坂先生。たったそれだけで、凪のことが本当に好きなんだと感じた。


……かける言葉なんてないけれど、そんなものは要らないんだろうけど。今この一瞬だけは、早坂先生にも幸せになってほしいと思った。


「そんなことより」


溜め息を吐いたあと、早坂先生はソファーに凭れていた体を起き上がらせる。


「彗」


反射的に彗のほうへ視線を向けると、彗はゆっくりと顔を上げた。


「言わなくていいの? 彼女にも」


……え?


視線は彗に向けたままなのに、早坂先生の親指はあたしに向けられている。意味が分からず困惑していると、薄茶色の瞳があたしを見つめた。


「な、何?」

「……うん」

「ウンじゃ分かんねぇだろ! ……はぁ、凪のことだよ。有須が戸惑うと思ったから、最初に言わなかっただけ」


凪のこと? 戸惑うって……。


「まだ何かあるの?」


目を伏せてしまった彗は小さく頷いて、暫くしてから真っ直ぐな視線をぶつけてきた。


「凪にはまだひとつ……秘密があるんだ」


ぐらりと胸の中心が揺さぶられても、突き付けられた現実は変わらない。


「知ってるのは彗だけで、俺も早坂も内容は知らない。ただ、あるってことを知っててほしいんだと。そうだろ、彗」


祠稀が代弁してくれたけど、すぐには呑み込めなかった。


まだ、あるって……どんなもの? 不眠症と颯輔さんと……それ以外にも?


「有須」


弱々しい、申しわけなさそうな彗の表情と声に、胸が鷲掴みされたよう。


「凪が自分の口で言わなきゃいけなから……待っててほしいんだ」


……こんなこと、今思っちゃいけない。



彗を、力いっぱい抱きしめてあげたいなんて。
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