僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「待ってる」
彗の姿を見ていたら零れた言葉。それは本心で、自然に出たものだった。
「……こう見えて、根性あるほうなんだよ?」
多分。そう思いながらも、彗を安心させたくて言った。だけどそんなものは要らなかったかもしれない。
だって彗がいつものように、穏やかに微笑んだから。
「ありがとう、有須」
変わらない笑顔。変わらない声音。あたしが勝手に感じる、彗の周りだけに流れるゆったりとした空気。
多くは望まないから、ずっとそんな彗でいてほしいと思った。
「ひとまず、凪のことは全部話し終えたってことで……」
コホッと途中で咳き込んだ祠稀が、「空気悪くねぇ?」とベランダのほうに顔を向ける。
「……あ、ちょっと換気しようか。飲みものも新しく淹れ直すね」
ベランダに近かった彗が何も言わずに閉まっていたカーテンと窓を開けた。
網戸の無数の風穴から、ひんやりとした冷気がリビングに流れ込む。
「……寒っ! ちょっと開けりゃいいんだよ、バカ彗! 全開にすんなっ」
「……煙草吸うんでしょ?」
「はぁ? 誰もそんなこと……まぁ吸うけど」
一定の温かさを保っていたリビングの空気は、どうやらあたしたちの頭をぼんやりとさせていたみたいで、流れ込んできた冬の空気は頭をスッキリとさせた。
「手伝うよ」
「あ、すみませんっ」
早坂先生がマグカップを2つ持ってくれて、お礼を言ってからキッチンへ向かう。
あたしがココアをマグカップに注いでる隣で、彗と自分の珈琲を淹れる早坂先生に驚いた。
「こ、濃いめが好きなんですね」
「そうだね。本当はエスプレッソが1番好きなんだけど」
彗のより2倍は入れたであろう珈琲の粉末がお湯に溶けていくのを見ながら、どんな味なんだろうと思う。
とっても苦いとかの域じゃなさそう……。
「はい、熱いから気を付けてね」
網戸の前で何か話していた祠稀と彗。祠稀は灰皿に煙草を押しつけ、彗はドアを閉める。
カーテンが閉まる前にベランダを見ると、2センチほど雪が積もっていた。