僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


『も、うっ……ヤダ……疲れた……っあたしは……あとどれだけ生きなきゃいけないの……?』


眠剤を大量に飲んで、彗に無理やり吐かせられた後に凪が見せた一面。


ほんの数分だけ垣間見た凪の本心は、あの時だけだったように思う。


以来ずっと、幾重にも重なる殻のような嘘で、凪の本心は隠れてしまった気がしてた。破ることは許されない。そんな気さえしてた。


「……凪」


それでも、それでも。


「あたしと話そう?」


役不足かもしれない。あたしと話したって、凪にとってなんのメリットもないかもしれない。


話してくれたとして、あたしはうまい言葉なんか言えないかもしれない。


だけど思うの。雨が降るたび。頼りない明かりを見るたび。ふとした瞬間に思い出す。


『有須!!』


古びた体育館倉庫に閉じ込められた時、誰より早く助けに来てくれた。手を伸ばして、呼んでくれた。抱き締めてくれた。


ひとりじゃないと、強く思った。


あたしはあの時のことを、きっと一生忘れない。



「凪。ちょっとずつでいいから。あたしと、話そう?」


ゆらりと、凪があたしを瞳に映す。すぐにまた前方へ顔を向けてしまったけれど、微かに息を吸ったのが分かった。


「……苦しいよ。何回も疲れたって、もう嫌だって思った。……死にたいって、思ったこともあるよ」


寒さを凌ごうとしたのか、凪は抱えていた自分の両足をギュッと強く抱く。


「でも無理なの。あたしには、生きることより死ぬことのほうが難しかった」

「……」

「感謝しなければいけないものが多すぎて……捨て切れないものが多すぎて……それがあたしをとどめるの」


颯輔さんに引き取られて、今まで育てられたこととか、彗の存在とか。そういうことかなと、ぼんやり思ったけど口は挟まなかった。


「本当に、苦しいんだよ……妹か弟なんかいらないって思うんだよ。……でも、サヤを想うと。サヤが幸せそうな姿を想像すると、兄妹が増えるのもいいなって思うの……」


その矛盾が、凪を苦しめるんだね。


颯輔さんを愛してるって女の部分と、家族を大事にしたいっていう娘の部分。
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