僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「苦しい……寂しい。……それでもあたしはいつも、最後には、サヤの幸せを願うの」

「……」


沈黙がまるで、凍て付くような冷気みたい。


あたしは少しだけ凪の横顔を盗み見て、表情を窺おうとしたけど無理だった。凪があたしを見て、目が合ったから。


「……願うくせに、諦めが悪いんだ、あたしは」

「……どういうこと?」


盗み見るどころか、しっかりと見てしまった凪の表情は、形容しがたいもので。笑いたいような、情けないような、どちらともつかないものだった。


「いつか……離婚する可能性あるかなって。……バカみたいでしょ」


フッと自嘲するような声を漏らした凪は、抱えていた両脚をベンチの外へ放り出す。


代わりに背もたれに右肘を乗せて、片手で目を覆ってしまった。


「ホント、自分が嫌になる……」


あたしに少し背を向ける形になった凪のか細い声が、胸に突き刺さる。


再び訪れた沈黙は容赦なく空気に圧力をかけて、言葉も、吐息すら喉奥で消し去ってしまう気がした。


……どうして何も言えないの。


自分が発した言葉がなんの意味も持たずに消えていくことを、恐れてるわけじゃない。


何を言っても届かないかもしれないことが、怖いんじゃない。


伝えることがなんでか凄く、難しくて。


これじゃあたしは、ただ聞いてるだけの人形みたいなのに。それでも凪は、苦しいと言ってくれた。自分のことが嫌だと、教えてくれた。


「有須……」

「……うん?」


言いたいことが、聞いてほしいことが、凪にはまだある?


「……あのね」

「うん」


……あたしは凪に伝えたいことが山ほどあるのに、バカだね。


「あたし、赤ちゃん産めないらしいんだ」


頭で考えていた。本当の気持ちは、心にあるのに。


めちゃくちゃかもしれない。下手くそな言葉かもしれない。


それでも湧き上がるような、抑制の効かない想いは、あたしが凪に伝えたいもので間違いなかった。


「……こっち見て、凪」

「……」


凪の左腕に手を乗せると、凪はあたしに顔を見せてくれる。


潤んだ瞳が、何かを訴えるかのようにあたしだけに焦点を合わせた。

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