僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


◆Side:凪



このまま泣き続けて、声が枯れて出なくなればいい。


涙ばかり流して熱くなる瞼が、眼球を溶かして何も見えなくなればいい。


耳の奥で大きく響く鼓動が、鼓膜を破って何も聞こえなくなればいい。


胸に感じる締め付けるような痛みが、心臓まで届いて潰してくれればいい。


そんなバカみたいなことを、今まで何回思っただろう。


サヤを想うたび。死ぬことができないと思うたび。


時間が止まるのではなく、早く、もっと早く過ぎてくれればいいと思った。


見えもしない未来が怖くて、囚われなくていいものに囚われて。


この世に永遠と名の付くものなんてないと思ったから、今だけをやり過ごすような生き方をして。


だから、思い出なんかいらなかった。過去なんて過ぎたもので、そのうち忘れていくもので、なんの役にも立たない。


そう、確かに思っていたはずだった。瞬きほどの刹那でも、その中にさえいれば自分は生きていけると思ってたのに。


絶対に色褪せない、ひと際輝く思い出が、あたしを呼び起こす。


大変な時期もあったけど、サヤとふたりで過ごした毎日が。

ほんのわずかな時間だけど、彗とふたりで過ごした毎日が。

色んなことがあったけど、彗と祠稀と有須と過ごした毎日が。


確かにあたしを支えて、言いようのない幸せを感じていた。


それをゴミのように扱って、忘れたふりをして。


――どうしてあたしは、こうなったんだろう。


いつから、本音を隠して、嘘をつくようになったんだろう。


バラバラに思えた思い出は、今に繋がるひとつだと、今なら分かるのに。


生き急ぐあたしは、大切なものさえ見落としていた。




「少しは楽になったかよ」

「!」


有須の肩に顔を埋めたまま、祠稀の声に目を見開く。


「いや、この場合、落ち着いた?」

「……どっちでもいいんじゃない?」


恐る恐る顔を上げると、祠稀と彗がお互い顔を合わせて、東屋の外に立っていた。


「……ふたりとも、よくここが分かったね」


有須がそう言うと、ふたりがこちらを向いたのが分かって目を逸らす。あたしは有須から離れて、見られたくない涙を拭った。
< 698 / 812 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop