僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:凪
このまま泣き続けて、声が枯れて出なくなればいい。
涙ばかり流して熱くなる瞼が、眼球を溶かして何も見えなくなればいい。
耳の奥で大きく響く鼓動が、鼓膜を破って何も聞こえなくなればいい。
胸に感じる締め付けるような痛みが、心臓まで届いて潰してくれればいい。
そんなバカみたいなことを、今まで何回思っただろう。
サヤを想うたび。死ぬことができないと思うたび。
時間が止まるのではなく、早く、もっと早く過ぎてくれればいいと思った。
見えもしない未来が怖くて、囚われなくていいものに囚われて。
この世に永遠と名の付くものなんてないと思ったから、今だけをやり過ごすような生き方をして。
だから、思い出なんかいらなかった。過去なんて過ぎたもので、そのうち忘れていくもので、なんの役にも立たない。
そう、確かに思っていたはずだった。瞬きほどの刹那でも、その中にさえいれば自分は生きていけると思ってたのに。
絶対に色褪せない、ひと際輝く思い出が、あたしを呼び起こす。
大変な時期もあったけど、サヤとふたりで過ごした毎日が。
ほんのわずかな時間だけど、彗とふたりで過ごした毎日が。
色んなことがあったけど、彗と祠稀と有須と過ごした毎日が。
確かにあたしを支えて、言いようのない幸せを感じていた。
それをゴミのように扱って、忘れたふりをして。
――どうしてあたしは、こうなったんだろう。
いつから、本音を隠して、嘘をつくようになったんだろう。
バラバラに思えた思い出は、今に繋がるひとつだと、今なら分かるのに。
生き急ぐあたしは、大切なものさえ見落としていた。
「少しは楽になったかよ」
「!」
有須の肩に顔を埋めたまま、祠稀の声に目を見開く。
「いや、この場合、落ち着いた?」
「……どっちでもいいんじゃない?」
恐る恐る顔を上げると、祠稀と彗がお互い顔を合わせて、東屋の外に立っていた。
「……ふたりとも、よくここが分かったね」
有須がそう言うと、ふたりがこちらを向いたのが分かって目を逸らす。あたしは有須から離れて、見られたくない涙を拭った。