僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「あー、まあ。たまたま?」
「……有須が病院内に戻ってきた時に、偶然見かけたから後追っただけだよ」
「彗、お前……言うなよ……」
ザクザクと雪を踏みしめる音を出しながら、ふたりが東屋の中に入ってくる。
「つーか寒っ! よくこんなとこで話せたよな。俺らマジで凍死するかと思ったわ」
「……聞いてたの?」
向かい側の椅子に座った祠稀に尋ねると、彗もその隣に腰かけた。まるでそうするのが当然みたいに。
「……悪趣味」
「はぁ? 聞いてほしかったくせに、よく言う」
……雪を踏みしめる音が聞こえないくらい、あたしは有須と話すのに夢中だったのか。
「それで? どうなんだよ。少しは楽になったわけ?」
「……」
そんなこと聞かれたって、答えられない。
逆に、聞いてどう思ったのか教えてほしいくらいなのに。
掻き消してはまた滲んで、塗り潰してはまた浮き出て。素直になれない分だけ、想いは行き場を失くす。
そんなことを繰り返してるうちに、何に心を痛めているのか、何に傷付いてるのか分からなくなるほど、自分を見失っていくんだ。
誰も知らなくていいと思う心と、気付いてほしいと思う心。そんな矛盾が交差して、余計に自分を曝け出せなくなる。
相手に自分を受け入れてもらえるかどうかじゃなくて、そんなことが怖いんじゃなくて。
自分自身と向き合えるかどうかが怖い。
自分は何なんだろう。何がしたいんだろう。どこへ行きたいんだろう。
あたしは、誰なんだろう。
それさえ見つければ、ここから抜け出せる気がするのに。
「まあ実際、どうでもいいんだけどよ」
「――…は?」
熱くなった瞼に触れ、落ちかけた視線が前を向く。どこかを見ていた祠稀があたしを見つめ返し、再び口を開いた。
「つーか、そんなに悩んでんのは、なんで?」
……なんでって。
ていうか人の話を盗み聞きしといて、どうでもいいって。