僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「……言いたいことって、何?」


そう尋ねると、祠稀は彗へ視線を投げかけ、彗は有須に同じことをする。


「……もう、特にないよね?」

「……うん、ないよね?」


有須が彗に、彗が祠稀に聞くと、長い脚を組んだ祠稀は、わざとらしく溜め息を吐いた。


「まあ、先に文句のひとつやふたつ、言わせろって感じだけどな」

「……充分言ったじゃん」


ボソッと呟いた彗に「あ?」と祠稀が凄んで、有須が「ふたりとも!」と焦ったような声を出す。


そんな光景が、まるでマンションにいるみたいな錯覚を起こすから、視線を逸らしてしまった。


滲んだ涙が、あたしの心を代弁してるみたい。


――ダメだ。もう、こんなの。


あたしがどれだけ最低なことをしたか、自分でもよく分かってるはずなのに。あたしを見つめる3人の瞳が、何も変わってないのが分かる。


答えなんか、まだ何も出てないのに。

望んでしまう。焦がれてしまう。


心の奥底に閉じ込めたあたしが、早くここから出してって、叫んでる。



「「「帰ろう、凪」」」



帰りたい。


ぼろっと落ちた涙が、絶え間なく、後から後から零れる。


帰りたい。
帰りたい。

あのマンションに。あのリビングに。あの空間に。ただ、そこにいるだけでいい。


キッチンに4人で立って、狭いって言いながらご飯を作って。


誰が先にお風呂に入るとか、入浴剤を使う使わないとか、そんなくだらないことで喧嘩して。


やってることはバラバラなのに、自然と4人がリビングに集まって。気付けば他愛ない話をして……。


思い出すんだ。ふとした瞬間に、いつも、いつも。


いろんなことがあったけど、それでも思い出すのはやっぱり、笑って過ごした時間だった。


バカみたいに騒いで、大声で笑い合ったあの瞬間は心に根付いて、枯れることがない。


……作った幸せなんかじゃなかった。あの日々は、あたしが作ったものなんかじゃない。


4人でいることが、当たり前だった。

4人だから、楽しかった。


帰りたい……。


一緒にいるだけで、心から幸せだと感じられる時間をくれた人たちのもとに。

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