僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「凪」
俯くあたしを呼ぶ、彗の声。
あたしたちの関係を家族だと言ってくれた彗の声は、昔よりずいぶん低くなった。
涙を拭うこともないまま顔を上げると、いつの間にか目の前まで来ていた垂れ目がちな瞳と視線がぶつかる。
東屋の外にある1本の外灯が彗の顔を照らして、その変わらない優しい笑みに、また涙が滲んだ。
差し出された手は、あたしが一度手放したもの。だけど本当はずっと繋がれていて、あたしだけが背を向け続けていたのかもしれない。
「……っ彗」
「……謝らなくていいよ」
――バカだ。
「俺たちは、迎えに来たんだよ」
彗のことも憎いだなんて、そんなの嘘。
彗の幸せを願うくせに、いつか離れてしまう日が来ることが怖くて、寂しくて。だったらあたしから先に離れてしまおうって。そのほうがきっと、傷付かなくて済むと思ったから。
あたしは本当にバカだ。
離れなきゃと思うたびつらくて、逢えない時間が寂しさを募らせる。そんな気持ちはずっと前から、知っていたのに。
「帰ろう……凪」
差し出された手に自分の手を重ねると、握り締められ、立ち上がるように促された。
引かれるように腰を上げると、つま先が悴んでいたのか、少しよろめく。それ以上に、驚くほど体が軽かった。
「!」
ドンッと急に後ろから抱き付かれて、回された腕の細さや力から、有須だと分かる。
「~っ」
言葉にもならない有須の嗚咽を耳にして、突然小突かれた頭に目頭が熱くなった。
唇を噛んで睨むように右を見る。祠稀が眉を下げて微笑んでいて、あたしの頬に流れた涙を指で拭ってくれた。
……あたしは変われたのかな。ほんの僅かでも。
嘘をつかずに自分らしく、正直に生きていけるのかな。
そう自分で決めることは簡単だけど、きっと実現するのは難しい。
変わりたいと思う瞬間、自分らしくいようと思う瞬間。きっとその瞬間は自分では選べなくて、誰かが与えてくれてるんじゃないかと思う。
「……ありがとう」
たくさんの思いを込めて、呟いた。
ありがとう。その言葉はきっと、幸せで胸が満たされる時に出る言葉。