僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
―――…
「凪っ」
彗に手を引かれて4人で病室に戻ると、サヤが座っていた椅子から立ち上がる。その隣にはまだ緑夏ちゃんもいて、あたしは気まずさから壁にかかる時計を見上げた。
……午後6時前。
立ち止まってしまったあたしの背中を彗が押してくるけど、それは決して無理やりではない。
すっかり体が冷えきったあたしを、心配してくれてるんだ。
「颯輔さん。面会時間も終わるし、今日は帰ろう。凪も、早くお風呂入らないと。風邪引いちゃうから」
「……」
俯きかけた顔をサヤに向けると、複雑な表情が目に入った。
……当たり前か。言い逃げしたようなものだもんな。
でも、時間もなければ、話す気力も残ってない。
「……ふたりとも、帰って。それで、もう来なくていい」
嫌だと目で訴えてくるサヤを、強情な人だと思った。いつからそんな風になったんだろう。
「退院したら一度、家に帰るから」
少し驚いた顔をしたサヤは、あたしがこのまま逃げると思っていたんだと分かる。元々そのつもりだったから、返す言葉もないんだけれど。
「絶対、帰るから。……そしたら、あたしの話を聞いてくれる?」
「……」
今度は泣きそうな表情を浮かべるサヤに、今は曖昧に微笑むことしかできない。
それでも逃げずにいられるのは、隣に彗が、後ろに有須と祠稀がいてくれるから。
「分かった……。帰ろう」
緑夏ちゃんにも声をかけたサヤは、荷物を持って足を進めた。あたしの目の前で立ち止まったサヤに微笑むと、何か言いかけた口元が結ばれる。
「……体調、崩さないようにね」
いろんな言葉を飲み込んでから出たサヤの言葉に、作り笑顔しか向けられなかった。
「……じゃ、俺らも帰るわ」
「また明日、来るね」
サヤと緑夏ちゃんに続いて、祠稀と有須も病室を後にした。閉じられたドアを暫く見てから、ベットへ向かう。
繋がれていた手は離れ、彗だけが、あたしを見ていた。