僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「浴場の利用って、何時から?」
「……6時半」
ベッドに腰かけて答えると、彗は時間を確認してから、あたしの元へやって来る。
隣に彗が座ると、少しだけ鼓動が速くなった。
彗だけが残ったことに違和感はなかったけど、何で?と疑問に思う部分もある。それをわざわざ聞こうとは思わないけど。
お互い黙ったまま何を話すわけでもなく、秒針の音だけが病室に響く。
いつだったか、秒針の音とふたりの鼓動が重なるのを感じながら、眠りについたことを思い出した。
向き合って、手を繋いで、寄り添うように、温め合うように。
そんなことは幾度となくあって……ずっと、続いていくものだと思ってた。
「……凪?」
返事の代わりに顔を向けると、彗はそれ以上何も言わなくて、あたしが首を傾げる形になる。
「凪」
「……何?」
なんでちょっと笑ってるんだろうと思ったけど、答えはとても簡単だった。
「呼んだだけ」
「……」
急速に、胸の奥が熱くなる。
呼ばなくてたって、ここにいることなんか見れば分かるのに。
「凪」
「……何回も呼ばなくたって、ここにいるってば」
「うん、知ってる」
嬉しくて堪らないという顔が目の前いっぱいに拡がった。
あたしは視界が涙でぼやけたけど、それを我慢する術は忘れてしまった。
……寂しかったのは、逢いたかったのは、彗も同じだったのかな。
あれだけ束縛しておいて、最後には手放したあたしを、彗はどう思ってるんだろう。
……あたしを迎えに来た彗自身が、答えか。
「ごめんね」
傷付けて、悩ませて、苦しめてるって分かっていながら、離れることができなくて。
「……きっと彗の優しさを、利用してた。彗なら、許してくれるって……」
ペチッと間抜けな音がして、あたしの唇を彗の指が塞いだ。
ほんのちょっとだけ悲しそうな笑顔が、そんな言葉はいらないと言っているようで。退いた指がそのまま頬に触れるから、黙るしかなかった。