僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
―――…
病院から凪が住んでいた街まで、タクシーで30分程度。
俺たちが住んでるマンションとはまた違う高層マンションの前でタクシーを停めてもらい、料金を払ってから降りる。
「……懐かしい?」
タクシーが走り去る音を聞きながら、マンションを見上げる凪に声をかけた。
「ちょっとね」
振り向いて微笑んだ凪は歩き出し、俺もその後に続く。
今日は1月7日。もうすぐ冬休みが終わるから、帰らなければいけない。いつ帰るのか話してはいないけど、明日、帰ると思う。
今日は平日で、颯輔さんも緑夏さんも仕事だ。ふたりが帰ってくるまで、俺はただ、凪とゆっくりとした時間を過ごすだけ。
――ガチャリと、凪が数ヵ月ぶりの我が家のドアを開けた。
玄関横にあるシューズラックの上に、当たり前のように鍵を置く姿。
その手が微かに震えていたことは、きっとこの先、俺しか知らないんだろう。
荷物を置き、先に靴を脱いで玄関に上がる。少し俯いて唇を結んでいた凪は視線に気づき、顔を上げた。
「……凪。本場のココアが待ってるよ?」
目を丸くさせた凪は差し出された手を見てから、くすりと笑う。
「本場って。味も分かんないくせに」
手を取った凪は靴を脱いで、玄関に上がる。凪の手を引いて廊下を進みながら、それもそうかと思った。
「でも、祠稀と有須は、凪が作ったほうがおいしいって言ってた」
颯輔さんがいないところでね。と付け足したけど、俺の後ろを歩く凪の表情は見えない。
でもきっと、嬉しく思ってるんだろうなって。そうして少しでも凪の心が、温かくなればと願った。
リビングに入ると、凪はソファーのほうへ向かって、俺はキッチンに入る。
「彗たちって、どこで寝てたの?」
「俺と祠稀は客間の和室。有須は、凪の部屋」
食器棚からマグカップを取って冷蔵庫を開けると、「ふーん」と少し遠くから返事が聞こえる。凪はバルコニーへ向かっていた。