僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
――――…
空が宵闇に染まった頃、玄関の開く音がして廊下に出ると、緑夏さんがバッグの他に買い物袋を提げて帰ってくる。
「おかえりなさい」
「あ、彗くん。ただいまっ」
パタパタとスリッパの音を立てて歩み寄ってくる姿は、主婦らしいものだった。
「凪ちゃんは?」
「……リビング。……持ってく」
「え……、あ! うん、じゃあ、先に着替えてこようかな」
あまり口数の多くない俺が何を言いたいのか、緑夏さんはこの数日間、必死で理解しようとしてくれる。
俺の存在は知ってたみたいだから、ある程度どんな人間かは颯輔さんに聞いていたんだろうけど。割と、問題なく会話はできる。
買い物袋を受け取ると、予想以上にズッシリとしていて、思わず「重い」と口に出しそうになった。
いったい何を買ったんだろうと思いながらリビングへ戻ると、凪がキッチンでマグカップを洗っている。
「……めちゃくちゃ重そうだね」
俺の顔を見て一言目で当てる凪は、すごいよね。
買い物袋をキッチンに置いて中身を出そうとすると、足音がリビングへ向かって来た。
「ごめんね! 買い物してたら遅くなっちゃって。夕飯、まだだよね?」
ドアを開けてすぐ右側にあるキッチンに顔を出した緑夏さんは、慌ただしくダイニングテーブルにあったエプロンを手に取る。
「有り合わせでよかったのに」
そう呟いた凪に緑夏さんはエプロンを身に付けて、微笑んだだけ。
「少しだけ待っててもらっていいかな。すぐ作るね」
「……急がなくていいよ」
髪を束ねながらキッチンへ入ってきた緑夏さんに凪は言って、俺と一緒にテレビの前へ戻った。
緑夏さんは30分ほどで夕飯をテーブルに並べたけれど、それはふたり分。俺はさして疑問に思わなかったし、凪も驚きはしなかった。
俺と凪が夕飯を食べてる間、緑夏さんは洗濯物を片付けたり、お風呂の準備をして過ごす。
なんとも言えない空気と、凪と緑夏さんの心の中。それを破けるのも覗けるのも、夕飯を食べ終わってからだろうなと、ぼんやり思った。