僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「ごちそうさま」
「あ、うん! お皿洗ってくれたんだね」
「……習慣だから」
エプロンの紐を解きながらリビングに戻ってきた緑夏さんはキッチンと、ソファーに座る凪を交互に見る。
「お風呂、入れるけど……先に何か飲む?」
「ううん。大丈夫」
凪はクッションを抱いたまま首を振って、どこかを見たまま動かなかった。
「彗くんは?」
「……緑茶?」
「あ、あるよ。ちょっと待ってね」
束ねていた髪も梳いた緑夏さんは、慣れた手つきで棚から茶葉を探し出す。凪はその様子を見ることもなく、除々に顔をクッションに近付けていった。
「彗くん」
呼ばれて視線を向けると、緑夏さんはグラスと湯のみを両方掲げている。
「……冷たいほう」
そう答えると、意思の疎通ができて嬉しいのか、笑みだけが返ってきた。
テレビが消された空間はとても静か。
緑夏さんもなんとなく察したんだと思う。俺の飲み物を持ってきた緑夏さんは、自分の分もテーブルに置いたから。
氷がグラスにぶつかる音に凪は顔を上げ、それに気付いた緑夏さんは、サッと飲みかけたお茶をテーブルに置いた。
……緊張してるのが、こっちにまで伝わってくる。
「フッ……変わってないね、緑夏ちゃん。そんなガチガチにならなくても、意地悪なことなんて言わないよ」
困ったように口元に笑みを浮かべる凪に、緑夏さんは肩に力を入れて、どうすればいいか分からないみたいだ。
横長のソファーに座る凪と、床に座る緑夏さんはテーブルを挟んで向き合い、俺はそんなふたりの真横にいる。
一人掛けのソファーに座ってる俺は、まるで傍観者。
「……緑夏ちゃん。あたしがこの前言ったことの意味が、分かる?」
凪の言葉を頭で繰り返したように、緑夏さんは少し間を置いてから、小さく頷く。
……俺はただ黙って、ここにいるだけ。
手に持っていたグラスをテーブルに置くと、部屋が暖かいからか、冷えたグラスの表面に水滴ができていた。