僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「またサヤを傷付けたら、あたしは二度と緑夏ちゃんを許さない」
「……うん」
「だから、あたしがサヤを傷付けたら、緑夏ちゃんが怒って」
予想しなかった言葉に目を見張ったのは、俺も緑夏さんも同じだった。凪は力なく笑顔を作るだけで、そのまま口を開く。
「正直に言うけど……多分、気付いてると思うけど。……あたし、緑夏ちゃんのこと邪魔だと思ってたんだ」
「……う、ん」
「ずっとサヤとふたりだったから。それが、ずっと続くと思ってたから。……あたしはね、サヤ以外に心の拠り所がなかったの。いざって時には、全く頼らなかったけど」
凪は抱いていたクッションを横に置いてソファーに凭れると、太ももの上で両手を組む。そこに視線を落としながら、話を続けた。
「邪魔で、邪魔で、早く出ていけって思ってた。でもそんなのサヤには言えないから、少しの辛抱だって。でも、中2になった頃、付き合ってるって言われて……この家を出たの。緑夏ちゃんが憎くて、それ以上にサヤも憎くて……耐えられなかった」
ギュッと自分の両手を握り締める凪は、緑夏さんの顔を見ない。その手の中に、どれだけの想いと言葉を閉じ込めてるんだろう。
凪が颯輔さんに抱く想いを、緑夏さんは気付いてると思うのに、凪は緑夏さんにもその言葉を明確に言わない。
『父親のこと愛してるなんて、気持ち悪いでしょ』
思えば、凪がはっきりと口にしたのを聞いたのは、俺と祠稀と有須の3人だけかもしれない。
「……なんとなく、もしかして、嫌われてるのかなって……感じたことはあったけど……でもあたし、凪ちゃんのこと……」
「うん」
初めて自分から話し出した緑夏さんの言葉を遮るように、凪は顔を上げた。
「あたしも、緑夏ちゃんのこと好きだったよ」
瞳を潤ませるのは緑夏さんで、凪はやっぱり、切なさを漂わせた笑みを浮かべる。
「姉妹でも、友達でもない不思議な感覚だったけど、緑夏ちゃんといると楽しかったよ。……家が、明るくなったって、確かに思った」
……仲がよかったって、凪からも颯輔さんからも聞いたことがあったから、嘘じゃないと思う。