僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「それなのにあたしは……」


言葉に詰まった凪は、一度前髪を横に梳いてから、浅く息を吸いこむ。


「……サヤはあの頃、あたしのことで悩んでたでしょう?」

「……う、ん……すごく、心配して……」


言い惑いながらも答えた緑夏さんに、凪はやっぱりと言うように口元に笑みを作った。


「あたしは……愛し方も分からないのに、愛されることばっかり願ってただけなんだ」

「……」

「求めるばかりで、自分のことばっかりで……サヤのことも、緑夏ちゃんのことも、考えてなかった」

「っそんなこと!」


……そんなこと、ない。


この家を出た凪は、ちゃんと考えてた。ふたりのことを祝福できるようにって、颯輔さんの娘に戻ろうって。


「そんなこと、あるんだよ。行きたい高校があるなんて嘘ついて、簡単に会える距離じゃない高校を選んで、サヤの反対を押し切って。けっきょく自分が幸せになりたくて、自分の心を守りたくて、あたしはこの家から逃げ出しただけ」


……後悔、してるの? この家を出ずに、颯輔さんのそばで変わらなければいけなかったと。あの頃、向き合うべきだったと。


だけどそんなの、中学生の凪に求めるには、あまりに酷だ。



「でも、後悔してない」


そうハッキリと言った凪の横顔を見て、息を呑む。


真っ直ぐと緑夏さんを見てる凪は、いつの間にかソファーに凭れていた背筋を伸ばしていた。


「この家を出て、知らない街に行って、世界が拡がった。彗と再会して、有須と祠稀と出逢って、色んなものを見て……自分を知れた」

「……自分……?」

「……あたしの中で固執してた自分が、崩れたの。彗や、祠稀と有須と暮らしてるうちに。自分に、こんな部分があったのかって」

「――…」


凪の言葉を聞いて、自分の口元を手で覆った。


再びテーブルあたりに視線を落とした凪は、そんな俺に気付きはしなかったけど。俺の鼓動は強く、速く、脈打つ。
< 712 / 812 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop