僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「それなのにあたしは……」
言葉に詰まった凪は、一度前髪を横に梳いてから、浅く息を吸いこむ。
「……サヤはあの頃、あたしのことで悩んでたでしょう?」
「……う、ん……すごく、心配して……」
言い惑いながらも答えた緑夏さんに、凪はやっぱりと言うように口元に笑みを作った。
「あたしは……愛し方も分からないのに、愛されることばっかり願ってただけなんだ」
「……」
「求めるばかりで、自分のことばっかりで……サヤのことも、緑夏ちゃんのことも、考えてなかった」
「っそんなこと!」
……そんなこと、ない。
この家を出た凪は、ちゃんと考えてた。ふたりのことを祝福できるようにって、颯輔さんの娘に戻ろうって。
「そんなこと、あるんだよ。行きたい高校があるなんて嘘ついて、簡単に会える距離じゃない高校を選んで、サヤの反対を押し切って。けっきょく自分が幸せになりたくて、自分の心を守りたくて、あたしはこの家から逃げ出しただけ」
……後悔、してるの? この家を出ずに、颯輔さんのそばで変わらなければいけなかったと。あの頃、向き合うべきだったと。
だけどそんなの、中学生の凪に求めるには、あまりに酷だ。
「でも、後悔してない」
そうハッキリと言った凪の横顔を見て、息を呑む。
真っ直ぐと緑夏さんを見てる凪は、いつの間にかソファーに凭れていた背筋を伸ばしていた。
「この家を出て、知らない街に行って、世界が拡がった。彗と再会して、有須と祠稀と出逢って、色んなものを見て……自分を知れた」
「……自分……?」
「……あたしの中で固執してた自分が、崩れたの。彗や、祠稀と有須と暮らしてるうちに。自分に、こんな部分があったのかって」
「――…」
凪の言葉を聞いて、自分の口元を手で覆った。
再びテーブルあたりに視線を落とした凪は、そんな俺に気付きはしなかったけど。俺の鼓動は強く、速く、脈打つ。