僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……誰かの微妙な変化に、気付くようになった。相手の言動に、疑問を持つようになった。昔も、そういう時はあったかもしれないけど……特に気に留めなかったから。そういう意味で、あたしはきっと……人を、思いやるってことを知らなかったんだと思う」
ドクン、ドクンと、凪の言葉を聞くたび、耳の奥で響く鼓動。
胸の奥が、風に煽られたように波立つ。
「自分の弱い部分も、汚くてずるい部分も知った。……彗には甘いって言われるし、有須のこと心配で迎え付けたり、祠稀とは喧嘩ばっかりで……」
凪は言いながら、本当に少しだけ、穏やかな笑みを覗かせた。
「自分らしさってきっと、自分のことのように思える大切な人の中にしか、存在しないのかなって思ったんだ」
――俺も、同じだ。
感化されたのか、変わらざるを得なかったのか、分からないけど。俺の中で確立されていた自分が、翳んでいく感覚を知ってる。
凪たちと住み始めて、知らなかった自分を見つけた瞬間は、確かにあった。
「……だから、緑夏ちゃんとサヤと話そうって思った。逃げないで、もっとちゃんと、向き合おうって。今のあたしなら、できると思ったから」
例えようのない感情が押し寄せて、ゆっくりとグラスを手に取る。
融けて小さくなった氷が4つ、寄り添うように浮かんでいて、少し鼻の奥がツンとした。
「緑夏ちゃん。あたし、ちゃんと治療するから。もし、子供を産むことであたしに負い目を感じるなら……そんなものは捨てて」
「……」
「……羨ましいって思う気持ちは、あるよ。でも、あの日言ったことは、嘘じゃない。サヤが夢見る未来をあたしも望むから……産んでほしいって、思う」
訴えかけるように言う凪から、緑夏さんは初めて視線を逸らす。零れ落ちそうな涙を、隠すように。
「……緑夏ちゃん。……サヤのこと、幸せにしてくれる?」
2年以上前にも言った言葉を、凪はもう一度口にした。
緑夏さんは柔く唇を噛んで、濡れる瞳に凪だけを映す。