僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「5人で幸せになる……っ」
震える声で、頬に涙を流しながら、緑夏さんは告げた。そこに秘めた覚悟はきっと、生半可なものじゃない。
結婚する前から、颯輔さんには凪という娘がいて。結婚した後に、俺という息子までできることになったんだから。
迷いも戸惑いも、葛藤もあったと思う。両親や友達に反対されたり、懸念を抱かれたりもしたんじゃないかと思う。
それでも緑夏さんは、ここにいる。強く前を見て、揺るがない愛情を心のど真ん中に置いて。凪と俺ごと包み込んで、未来へ進んでくれる。
「「ありがとう」」
気付いたら出ていた声が凪と重なり、俺と凪は顔を見合わせた。
「……真似しないでよ」
「……えぇ……俺?」
睨まれて、その視線から逃れるように、持っていたグラスを口に運ぶ。
「……あたしも何か飲もうかな」
「どうせココアでしょ?」
「そうだけど……っていうか緑夏ちゃん、泣き過ぎじゃない?」
すすり泣く緑夏さんはティッシュを鼻と口に当てて、惜しげもなく涙を流していた。俺はグラスを置いて、凪は首の後ろを掻く。
「あたし、ずっと、もっと……凪ちゃんと話せばよかったって、思ってて……でも、何もできなくてっ……ありがとう……」
「うん……省かれすぎて、ちょっとよく分かんないかな」
凪の言う通り……でも、緑夏さんも悩んでたんだって分かる。
凪が苦しんだように、緑夏さんも苦しんでいて。凪が颯輔さんの幸せを願うように、緑夏さんも俺たちの幸せを願ってくれていた。
それだけでもう、充分だ。
そうでしょ? 凪。
「楽しみ……赤ちゃん。無事に、元気な赤ちゃん産んでね」
「うん……うん……1番に抱いてあげてね……っ」
涙声でそう言う緑夏さんに、凪も俺も目を丸くして、吹き出してしまった。
「そこはサヤでしょ!」
俺も凪と同じように思ったけど、颯輔さんもきっと、そう言うかもしれない。
――脳裏に浮かんだのは、家族。
近い未来、5人が幸せそうに笑う光景が、鮮明に思い描けた。