僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
――――…
くすくすと楽しそうな笑い声が聞こえる。
今となってはあまり見ることのない、石油ストーブの前。
積み重なった本と、目の前で開かれた本に写る、宇宙の写真。くたびれたクマのぬいぐるみと、少し毛玉ができたクッション。
小さな手が、開かれた本をトントンと指差す。
『見て。彗とおなじ名前。きれいだね』
――ふわりと背中に感じた何かに、目を開けた。
パタンとドアの閉まる音がして数秒、テーブルに突っ伏している自分に気付く。
「……、」
寝てた。
そう思うと、肩にかけられたのがブランケットであることも知る。
ぼんやりする頭を上げて目を擦ると、テーブルの上に広げられたアルバムが目に入った。一緒に住んでいた頃の、幼い俺と凪が写ってる。
……夢、見てた。これのせいかな……。
ぽりぽりと後頭部を掻きながら辺りを見渡すと、目の前にあるテーブル以外何もなかった。
「……」
――凪!
隣で一緒にアルバムを見ていたはずの凪がいないことにやっと気付いて、慌てて立ち上がる。
この部屋が以前、凪が使っていたものだということも思い出し、ドアを開けた。
「わっ! ビックリしたぁ……」
ドアを開けると、前を通過しようとしてたのか、濡れた髪をタオルで拭う緑夏さんがいた。
「起きちゃったんだね。お風呂、入れるよ?」
「あ、うん。……凪は?」
グラスも持ってる緑夏さんは後ろを振り返って、視線だけでリビングにいるよと教えてくれる。
そしてもう一度俺と目を合わすと微笑んで、寝室へ行ってしまった。
……午後11時半。颯輔さんが帰ってきていてもおかしくない時間だ。
腕時計で時間を確認してから、少し迷ってリビングへ向かう。
閉ざされたドアの前で立ち止まると、デザインカットされたガラスのせいで、中の様子はよく分からない。
……緑夏さんが寝室に行ったってことは、ふたりきりで話をするのかな。
そう思って背をドアに預ける。名もない感情が込み上げて、それを噛み締めるように目を閉じた。
「サヤ。あのね――…」
「……」
凪の声を聞いて、唇に和やかな微笑が浮かぶ。すっと目を開けてドアから離れ、俺は部屋に戻った。
凪がどんな表情で戻ってきても、笑顔で迎えてあげられるように。
.