僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:祠稀
――カチカチ、カチカチカチ。
出し過ぎたシャーペンの芯を戻しては、またカチカチと出し続ける。
暖房のきいたリビングで、俺は解きもしない冬休みの宿題をテーブルに広げていた。隣では有須が一問解くたびに時計を見上げている。
「……5時に着くんだっけか?」
「うん。電話ではそう言ってたけど……」
過ぎましたけど? 何? もしや明日の朝5時?
「宿題どころじゃねぇよ!」
シャーペンを床に叩き付けると、有須にしては珍しく盛大な溜め息をついた。
昨日、俺と有須はこの家に帰ってきて、退院した凪は彗と一緒に今日帰ってくる。
昨晩は実家に泊まったらしい凪は、何か少しでも解決したのか。そんなことばかり考えてたら、もうこんな時間だ。
ていうかホントに帰ってくんのか?
彗だけ帰ってくるとかそんなオチは望んでないんですけど。それより5時過ぎてますけど。
「ねぇ祠稀……」
イライラし出した俺に声をかけてきた有須を見ると、一気に苛立ちがどっかに吹っ飛んだ。
「ふつうってなんだろう……あたし今、ふつう?」
ブルブル震えてる奴のどこがふつうなんだよ。
「ビビりすぎだろ。大丈夫かお前……」
哀れみの視線を向けると、有須は「だって!」と自分の頬を両手で包みこむ。
「今まで通り接するって決めたけど! あたしはふつうのつもりだけど! 凪にはそう見えなかったらどうしよう……!」
「ああ……大丈夫じゃん、そのままで」
「ホント!? 変じゃない!?」
「いつも通り」
ご立派なうろたえっぷりで。
「はぁ……よかった」
ほっと胸を撫でおろした有須をアホだなと思って、もう一度時計を見上げる。と、玄関の鍵が開く音。
……帰ってきた。
「あ、おい!」
俊敏に立ち上がった有須に舌打ちをして、リビングを出ていく背中を追いかける。
バタバタとした足音と、狭い廊下を我先にと進んだことを恥ずかしいと思ったのは、ぽかんとした凪と目が合ってからだった。