僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……そんな慌てて、どうしたの」
俺と有須は目を合わせ、お互い気に食わない感じだったけれど、今はそんなことしてる場合じゃない。
「別に、なんでもねぇよ」
「ご飯できてるよ!」
凪は意味が分からないって顔をしてたけど、その後ろで彗が笑ったから、伝わったらしい。
……走って出迎えるなんて、ガキじゃあるまいし……。
「ふたりで作ったの?」
「うん! お腹空いてる?」
玄関に上がった凪は有須と会話しながら俺の前を通り過ぎ、何事もなかったようにリビングへ向かっていく。
ふと感じた気配に顔を向けると、彗が俺の肩にそっと手を置いた。
「ドンマイ、祠稀」
「……」
「はぁ……お腹空いた」
キャリーケースを持って廊下を進んで行く彗に、何かがブチッと切れる。
「彗テメェ! 待てコラ! 今なんつった!?」
走って追いかけると、彗はあろうことかキャリーケースを廊下に置いて、走って逃げた。
リビングへ入る前に彗のダウンコートのフードを掴んだ瞬間、グンッと体が前に引かれる。
「わ! ふたりとも何してるの!?」
大きな音を立ててリビングへ倒れ込んだ俺と彗に、有須が駆け寄ってくる。
「イッ……テェな! 何転んでんだよ! バカ彗!」
「……だって、追いかけて来るから……」
答えになってんのかなってねぇのか微妙だな!
前のめりに転んだ俺は起き上がり、強打した腕をさする。彗はそのままゴロンと仰向けになって、俺を見上げてきた。
「……なんだよ」
楽しそうに笑顔を浮かべる彗の目が輝いて見えるなんて、いよいよ俺の目はおかしくなったらしい。
「見んな、ウゼェ!」
バシッと彗の額を叩くと、「祠稀っ!」と有須に怒られる。
「……痛い……ひどい」
「彗、大丈夫!?」
額を押さえる彗は有須に顔を覗かれると、やっぱり笑顔を見せた。そんな彗に有須は頬を染めたし、俺は諦めの溜め息しか出ない。
――幸せなんだろ。ここに、凪と帰ってこれたことが。