僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「おい、凪。この浮かれっぱなしの奴どうにかしろよ」
部屋から出てきた手ぶらの凪に声をかけたけど、言葉は返ってこない。
代わりに一瞬だけ微笑みを向けられて、胸の奥が熱くなった。
「有須、ご飯ってあっためるだけ?」
「あ、うん。鍋だから、あっちで食べよっ」
「じゃあ準備しよっか」
凪は腕捲りをして、有須と一緒にキッチンへ入る。
俺と彗は未だ床に座ったままで、彗が上半身を起き上がらせると、どちらからともなく顔を見合わせた。
……今、昨日どうだった?って聞くのは、野暮ってもんか。
フゥ、と息を吐いて立ち上がる。そのまま彗に手を差し出すと躊躇いなく手が置かれたから、引っ張り上げた。
「……お疲れ」
とりあえずそれだけ言って手を離すと、彗は目を見張ってすぐにはにかむ。
あんまり照れくさそうに笑うもんだから、俺まで恥ずかしくなって。いつものようにごまかそうと、彗の頭に手を伸ばした時だった。
「は!? バッ……やめろ!」
いきなり抱きつかれて、全身が粟立つ。
「祠稀、好き」
「俺は男に抱き締められる趣味はねぇ!!」
離せ!と彗の顔と肩を押し返しながら逃れようとすると、凪の笑い声がリビングに響いた。
「笑ってんじゃねぇよ凪!」
久しぶりに聞く笑い声と笑顔に、それ以外の言葉は出なくて。
「いいじゃん、別に。チカも彗もたいして変わんないでしょ」
クックッと含み笑う凪の表情は楽しそう。
チカに抱きつかれるのと彗に抱きつかれるのじゃ全く違うなんて、言っても無駄だと思った。
「祠稀」
「いいから離れっ……なんだよ」
引っ剥がそうとした俺に内緒話を求めてきた彗。
不審に思いながら耳を貸すと、5文字の言葉が届けられた。そうしてやっと離れた彗は微笑んで、凪と有須の元へ向かっていく。
「……アホか」
痒くなった耳を押さえてポツリと呟いた声は、誰の耳にも入ることはなかった。