僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「うん、朝飲むでしょ」
……ほら見ろ。振り返りもしねえ。
「今飲む」
ココアパウダーの缶を開けた凪はやっと、俺を瞳に映した。
「部屋、持ってきて」
「は? ちょ……っ」
有無を言わさぬまま部屋に戻っていく俺に、凪は言葉を言い切れずに終わる。
パタンと閉まったドアは数分後、外からノックされた。
「……自分で取りにきなさいよ」
ドアを開けるや否や、不機嫌そうな声で言う凪に笑う。
「ちゃっかり自分の分もあるじゃねぇかよ」
「……」
「あーっハイハイ悪かった! どーも!」
ドアを閉めようとした凪を引き止めると、ムスッとした表情のまま部屋に入ってきた。
今度はなんだ。不機嫌のターンか?
そう思いながらも、凪が自分のココアを持ってきたのが嬉しかったりする。
テーブルとベッドの間に座る俺の前にマグカップを置くと、凪は床をぐるっと一通り眺めた。
「クッションなら、こっち」
「……取って」
俺の右側にあった円形のクッションを左側に置くと、凪は顔をしかめる。それはもう本当に、なんで?って感じで。
俺の隣は嫌だってか!
もう好きにしろと思ってマグカップを手にすると、凪がちょっとクッションを引っ張って、少し離れて隣に座った。
……なんだかなー。そんな微妙に気まずい顔されても、俺にどうしろと?
「……何これ」
「あ?」
凪が持ちかけたマグカップを置いて、テーブルにあった雑誌を拾い上げる。その表紙には“TATTOO BURST”と書かれていた。
「……入れ墨でも彫るの?」
「ああ、まあ……多分。いつになるかは知らねぇけど」
表紙を捲った凪に告げると、「ふーん」と言いながら興味深そうに中身を見ている。
「祠稀は鳥って感じ」
……またそれか。
「じゃあ凪はヘリオトロープって感じ」
「じゃあって。……何それ」
「花」
「花? あ……」
凪の手から奪った雑誌をベッドに放り投げる。
「……見てたんですけど」
「つまんねーだろ。俺が」
サラッと言った俺に対してなんとも言えない視線が向けられたけど、気にしたら負けだ。