僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「――パパ。大好きだよ」
笑った。
泣きながら、笑った。
「世界でいちばん、大好き」
よく喋って、心配性で、すぐいじけて、いつまで経っても子供みたい。
あたしが落ち込んでたら、頭を撫でて抱き上げてくれた。眠れない夜は、一緒に寝て抱き締めてくれた。
わがままを言っても、素直になれなくても、いつもそばにいてくれたね。
春の桜も、夏の海も、秋の紅葉も、冬の雪も。鮮やかな四季を繰り返し、一緒に過ごした。
家族だから、できたこと。
忘れたくない。
忘れたくない。
その思い出があたしを強くも弱くもするけど、それでもあたしは前に進まなきゃ。
今すぐ答えが見つかるものばかりじゃなくて、苦しさに立ち止まってしまう時のほうが多いけれど。
現実から目を背けてるうちは、答えばかり求めてしまうから。
目を背けてるうちに時間は経って、再び目を向けた時に、大切なものがなくなっていないように。
あたしは前に、進まなきゃ。
「パパの娘になれて……本当によかった」
「……凪」
言わないよ。気付かれていたって、この想いは告げない。
きっとサヤは、男としてごめんって言うと思うから。父親で、なくなってしまうから。それは、嫌だから。
「ずっと……あたしの、パパでいてね」
引き寄せられて、抱き締められて、それでもあたしは微笑んだ。
苦しいよって言いたくなったけど、愛しさに涙が溢れて嗚咽しか出ない。
「……凪。俺はいつだって、凪の幸せを願ってる」
大好きだった。
大好きだった。
そばにいなければ生きていけないと思うほど。ふたりだけしかいない世界を望むほど。
誰よりサヤを、愛してた。
「大好きだよ、凪」
それ以上の言葉はいらない。
それ以上の言葉は言わない。
あたしはちゃんと、愛されていた。それだけで、充分だよ。
望んだ形とは違うけれど、何より輝いてる。
あなたが愛してくれて、育ててくれたあたしはもう、16になった。
血が繋がらなくても、家族。
それ以上の愛は、まだ知らなくていい。