僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ

―――…


カチャリと自室のドアを開けたのは、深夜1時過ぎ。


サヤの腕の中で泣き疲れたあたしは30分ほど眠ってしまったみたいで、サヤの膝の上で目が覚めた。驚くあたしを余所に、サヤは「お風呂入る?」と言ったんだ。


とても、とても、優しい笑顔で。

「凪」

今、あたしの名前を呼ぶ、彗と同じように。


「……起きてたの?」


お風呂に入って髪まで乾かしてきたあたしとは違い、ドアを開けてすぐ目に入った彗は、テーブルの前に座ってアルバムを見ていた。


「起きてたよ」

「寝てるかと思った」

「凪を待ってたから」


近くに座ったあたしにそう微笑んで、彗は見ていたアルバムを閉じる。


……待ってた、って……。ていうか、なんでダウンコート着てるの?


「颯輔さんは?」

「え、あ……多分、まだリビン、グ……?」


答えてる途中で立ち上がった彗を見上げると、手が差し出された。意味が分からず首を捻りながら、その手を掴む。


グッと引っ張られるがままに立ち上がると、彗は手を離して自分の後ろを振り返った。そこにあるのは、あたしと彗の荷物。


「え? 何?」


彗が手を伸ばしたのは女物のコートで、それはすぐにあたしの肩にかけられる。


「彗?」


呼びかけても欲しい返事は返ってこない。彗は静かに、と言うように口先に人差し指をあてると、少し意地悪そうな笑みを覗かせた。


「こっそり、出かけちゃう?」

「……」


なんで?とか、今から?とか、言うことはあったんだけど、気付いたら頷いていた。


彗は満足そうに微笑んで、コートをちゃんと着たあたしと手を繋ぐ。


静かに開けられたドアの隙間から、彗はきょろきょろと左右を確認し、ふたりで廊下に出た。


忍ばせながらも早足で玄関へ向かい、あたしは僅かに後ろを振り返る。閉ざされたリビングのドアからは、温かな光が漏れるだけ。


「……」


なんとも言えない感情を感じながら彗と手を繋いで、夜空の下へ飛び出した。

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