僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「……誰かが立ち止まったら、どうするの」

「誰かが振り向いて、引っ張ってくれるよ」

「じゃあ……先に……誰よりも早く先に、進んでたら?」


上擦った声で聞くと、視界の端で彗があたしを見たのが分かる。見返すと、彗は膝に乗せた両腕に頬を乗せて、微笑んでいた。


「振り返ってくれた」


嬉しそうな、幸せそうな、そんな笑顔。あたし自身に向けられた言葉。


あたしのことじゃなくて……。そう思ったけど、言葉にはなってくれなかった。


彗の手が伸びてきて、かじかんだ指先が涙を拭ってくれる。優しい笑みが、また涙を誘う。


「……寂しくないよ、凪。ひとりじゃない」


完全にぼやけてしまった視界を閉じて、耐え切れず、俯いた。


彗の膝があたしの膝にぶつかって、寒空の下、温もりがあたしを包み込む。


「それでも寂しくなったら、思い出して。追いかけても、振り向いても、引っ張られてもいいから。誰かを見て。誰かと話して。そうして寂しさを乗り越えればいいんだよ」


ぎゅう、と強く抱き締められて、心まで抱き締められたような気がした。


いつのまに、こんなに強くなったんだろう。


……彗はもう、大丈夫だね。あたしも多分……大丈夫だよ。



「……彗」

「ん?」

「あたし、サヤのこと……本当に、本当に、愛してたんだ。サヤには言わなかったけど、ホントなんだよ……」

「……うん。知ってるよ」


想いは、伝えないままだけど。


大好きって言えた。サヤの娘になれてよかったって言えた。


「ずっと……あたしのパパでいてねって、言えた」


嘘じゃないよ。嘘じゃない。それだけで充分だと、愛されてることに変わりはないと思ったから。


「だから、サヤとはさよならしたの」


あたしはもう二度と、彼をサヤと呼ばない。そう、決めた。


愛しいけれど。

とても、とても、愛しいけれど。


やっぱりあたしは、いい娘で在りたいから。


この鼓動が、脈が、止まるまで。抱えきれないほどのありがとうを胸に、生きていたい。


恩返しなんて、大それたことはできないかもしれないけど。あたしが笑ってるだけで、サヤは幸せを感じてくれるはずだから。それでいい。
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