僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……凪が頑張ったのは、みんな知ってるよ」
頑張ったのかな。分かんないけど……みんながいてくれたから、できたことだよ。
守って、守られて。支えて、支えられて。想って、想われて。そうして人は、たくさんのことを乗り越えていくのかなって思うから。
サヤのこと、大好きだった。愛してた。
だけど、伝えたかったことは全部言えたから……サヤの想いも聞けたから……寂しくないよ。悲しくも、苦しくもないんだ。
きっと、誰にも頼らず、ひとりで抱えて、素直になれなかった自分がいちばん、寂しさを感じるんじゃないのかな。
素直になることで、正直になることで、壊れてしまうものも、失うものもあると思う。
だけど、素直になれた。それだけが、寂しさを埋めてくれる気がする。
「……彗」
「うん」
「プレゼント、ありがとう」
しゃがみ込んだまま抱き締められていたあたしは、彗から離れる。
垂れ目がちの瞳と目が合って、それを隠してしまいそうな前髪を横へ流した。
「でも、持ち帰れないよ」
「……うっかり」
ハッとした様子もなく、淡々と言う彗に笑いが零れる。そんなあたしを見て彗も微笑んで、冷えた頬を撫でてくれた。
幾度となく体感していたこと。
いつもと違ったのは、彗が首を伸ばしてあたしの頬に唇を落としたことだった。
リップ音もなく、本当に一瞬触れただけ。涙が流れたあとを消すように、突然感じた温かさに目を見張ると、彗が目の前に戻ってくる。
「お腹空いた」
「……」
人の頬にキスしといて何言ってんだろうと思ったけど、あたしは笑った。呆れながらも、彗らしいと思いながら。
「じゃあ、帰ろっか」
「んー……うん」
立ち上がり、雪だるまの輪を見下ろす。キュッと胸が締め付けられていると、彗が携帯を取り出して写真を撮った。
数秒画面を見ていた彗はあたしに顔を向けて、「帰ろ」と微笑んで歩き出す。
雪だるまたちを名残惜しく思いながらも、再び見ることなく右足を前へ出した。
彗が言った言葉は記憶に残り、きっとあたしを支える。
ひとりじゃない。
今度こそ、本当に。前を見て、歩き出す。
あたしと彗は会話もせずに、マンションへの道を黙々と進んだ。
何かに想いを馳せながら、手を繋ぐこともなく。