僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
――――――…
「ふぅん。それ、有須ちゃんにも同じように話したの?」
「うん。まあ、ザックリとだけど」
目の前には、ソファーに座って珈琲を飲む早坂先生。有須と話をしてから、約束していた通り早坂先生と逢っていた。
「有須ちゃん、なんて?」
「そっか、って。少し泣いてたみたいだけど、別れ際には笑ってたよ」
全体的にブラウンで統一された、趣のある喫茶店。ドリンクメニューは珈琲ばかりで、店内も同じ香りが充満してる。
あたしも早坂先生もブラック珈琲を飲みながら、話をしていた。
「笑ってた、ねぇ……他に何も言われなかったのか?」
「……帰ってきてねって言われたよ。少し心配そうに、不安げに」
どうせ見抜かれることだと思って正直に言うと、早坂先生はクッと意地悪そうに口の端を上げる。
ていうか、今あたしが話したのは早坂先生なのに、有須の反応ばかり聞いてどうするんだろう。
「俺はどう思ってるんだろう、って感じか。その表情は」
……黙っていてもバレるんだ。いつも、こんな風に。
そんなところが嫌いだった。そんなところが、好きだった。
「……彗には、自分から言うほうが多いけど。早坂先生は、あたしが話さなくても見抜いちゃうことが多いよね」
「滲んでるからだよ。隠し切れてないんだから、わかる。こんなんでも一応カウンセラーやってんだから」
あたしは珈琲カップを手に、フッと小さく笑う。
いつもと違う飲み物は苦くて、甘さなどなくて、香りばかり強い。早坂先生みたいだ。
いつもあたしの痛いところをつく。ぶっきらぼうな優しさは分かりづらくて、だけど体を重ねた分、彼の香水はあたしに染み込むようで。
「……」
カチャ…とカップをソーサーの上に置く。
「今まで、ごめん……。ありがとう」
目を見て、言えなかった。少し頭を下げていたからじゃなくて、心苦しさから、顔を上げて言うことができなかった。
他にもっと、言うことはあるはずなのに。何に謝って、何に感謝しても、早坂先生はそんな言葉はいらないだろうと思う。