僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


彼が欲しい言葉はずっとひとつだったと、知ってる。それ以外いらないんだと、知ってる。


だから、ごめん。それ以上に、ありがとう。


あたしは、そう言うことしかできないんだ。



「……賭けてたんだけど。やっぱダメだったか」


賭けてた……?

恐る恐る顔を上げると、早坂先生特有の、意地悪い笑みを向けられる。


「俺がこっちに転勤になったのは、期間限定」

「……嘘」

「ホント。今月末、あっちに帰る」


驚いても、嘘だと言っても、早坂先生は当たり前のように言った。


その表情は悲しそうでもなければ、悔しそうでもない。こうなることを最初から知っていたみたいに、早坂先生は肩をすくめた。


「最後の悪あがきだったんだよ」


堪らず、唇を結んだ。口を開けば、バカじゃないのと言ってしまいそうで。そのまま、泣いてしまいそうで。


後悔も、罪悪感も、彼にとっては煩わしいものでしかないんだろう。


「全く気付かなかっただろ? 凪が俺に勝てる日なんて、来るわけないからな」


そんな風に、まるであたしが早坂先生に振りまわされてたみたいに言う。


逆なのに。あたしが、早坂先生を身代わりにしてたのに。


――ごめん。

ごめん。気付かなかった。知らなかった。


あたしが望むばかりで、求めるばかりで。いつか、あたしが手を離さなければいけないと思っていた。


その瞬間でさえ、早坂先生は自ら選ぶんだ。あたしより先に、あたしからしなくていいように、手を離す。


「残念なのは違いないけど。今の凪と外歩いても、何もおかしくないからな。……ああでも、制服はちょっといただけないか。そそるっちゃ、そそるけど」


いつもの口調。変わらない態度。勝負をしかけるような目つき。


それを貫き通すのなら、あたしもそうするよ。


「変態」


ぶはっと吹き出したあと、クックッと喉仏を上下させて笑う、早坂先生。


「違いない。けど、凪には言われたくねぇな」


優しい人。意地悪いけど、ふとした瞬間に垣間見える優しさが、いつも極上だった。


彗と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、あたしという人間を知ってる人。


知って、他の人とは違う形で背中を押してくれる人。
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