僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……早坂先生がいなかったらって思うと、あたしは中学生で消えてたかもしれない」
カウンセラーと、患者。その域を超えてでも、繋がっていた。
間違ってたかもしれない。だけどあたしにとって、必要な存在だった。
利用したのか、頼っていたのか、依存していたのか。そのどれもが当てはまる気がするけど、大事な存在だったことに間違いはないよ。
「あたしと出逢ってくれて、ありがとう……」
返ってきたのは言葉ではなく、溶けそうなほどゆるやかな、笑顔だった。
「もう行きな。帰りを待ってる奴がいるだろ」
「……」
もう逢えない?
そう思ったけど聞くのはずるい気がして、少し間を置いてから立ち上がる。
「……またね」
さよならは、言わない。きっと早坂先生はパパの“輪”の中にいて……また、出逢えると思うから。
「おう。また、いつか」
微笑みに、微笑みを返して、あたしは早坂先生に背を向けた。
――泣くな。この店を出ても、泣いてやるもんか。
「凪」
ピタリと足を止めたあたしの名前を、早坂先生がもう一度呼ぶ。
「好きだったよ」
振り向いたあたしに、そう言うから。嬉しくて、幸せに思えて、少し泣きそうになって。
「あたしも好きだったよ」
本当の気持ちを言った。
早坂先生は口の端を上げながら目を伏せて、二度軽く手を振ってくれる。
早く行けって言ってるみたいで、再び足を進めた。
ブラック珈琲の苦みも、香りも、嫌いではないけど。砂糖やミルクを入れれば甘く、まろやかになることを知ってる。
あたしと早坂先生の関係は、互いが相手を貪るような、歪で、不格好なものだった。
それが消えて、なくなったように思えても。過ぎゆく時間の中で、ふとした瞬間に相手を想えば、少しずつ形を変えていくんだろう。
何してるかな。元気かな。
そうして再び逢えた時、あたしは目いっぱい、喜ぼう。
君に逢えてよかった。
それだけを胸に。いつか、また。