僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ

残響の砌



◆Side:凪


――高校3年生、春。


至る所で桜雲を見かける季節。静かでのどかな日々を過ごしながら、あたしは教室で携帯画面をじっと見つめていた。


「なー……ぎっ!」

「うわっ」


突然後ろから抱き付かれ、ビクッと体が跳ねる。


視界に入ったのは、腕捲りされて少しくたびれたワイシャツと、手首に連なるアクセサリーに1冊の漫画本。


「もう、チカッ!」


首に巻きついた腕が離れたことで振り返ると、無邪気な笑顔があった。まるで悪戯が成功して喜んでるみたいだ。


「急に抱きつかないでよー。ビックリするじゃん」

「コレ。読み終わったから、貸しに来たんだよ?」


いや、そんなことは見れば分かるけど……。


少し痛む首を押さえながら、チカが持ってきた漫画本を受け取る。そのまま漫画本を鞄の中にしまうと、チカはあたしの前の席に座った。


「何見てたの? あ、赤ちゃん」


机の上に置かれた携帯を覗いたチカは、興味深そうに画面いっぱいに映る寝顔を見下ろす。


「弟だよ」


携帯を取り上げて差し出すと、チカは「ああ!」と笑いながら携帯を受け取った。


「まだちっちゃいね。1歳になった?」

「うーんと……去年の6月に生まれたから、10ヵ月」

「へぇ。……かわいいい」


頬を緩めてそう言ったチカに、あたしも嬉しくなる。


うん、そう。かわいい。
すっごく、すっごく、かわいいの。


「もう歩くようになった?」

「まだ。はいはいで後ろついてくるみたい。ああでも、つかまり立ちするようになったって」

「ハラハラするね」

「あははっ! 同じく」


チカが携帯を返してきて、あたしはもう一度弟の寝顔を見てから携帯を置いた。


「それにしても、早いよね。時間過ぎるのって。僕なんてもう2年生だよ?」

「首席入学できなかったけどね」

「うわぁ。やめてよ。そんなの目指してたの、枢稀だけだし」


顔をしかめるチカだけど、入学当時から成績上位であることはみんな知ってる。


きっとそれは枢稀さんや祠稀のお母さんへ、チカなりの恩返しなんだろうなって思う。

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