僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
チカは施設入所ではなく里親委託だから、祠稀の実家に住んでいる。
関連機関の援助を受けながら暮らしてるチカは、あれから数回お母さんと義父と面会したらしい。
ふたりは別れておらず、虐待のない家庭で再び一緒に暮らせるようにと、各関係機関が計画を立て、頑張ってくれてる。
最初はチカを里親委託することに同意していたふたりは、暫くすると非協力的になった。
児童相談所の役員や警察などが家庭訪問しても、話を聞かず追い出すのだと。そのくせ強引に面会や電話を強要してくるのだと、祠稀から聞いた。
これではチカを家に帰すわけには行かず、チカとふたりを会わせると加害行為に及ぶ恐れがあるって。
今すぐの話ではないけど、家庭裁判所に親権喪失の申し立てをするかもしれないって聞いてる。
「何じっと見てるのさ。僕の顔、そんなに変?」
「……んー。大きくなったなぁ、と思って」
「ちょっと……バカにしてるの? 僕今年17だって、今そういう話してたじゃん」
「うわぁああ。だって、チカと出逢ったの14歳のときだよ? いやー、早いね」
しみじみしてると、チカは片眉をあげて怪訝そうにあたしの顔をじろじろ見てくる。
「凪はもう、二十歳って言っても通じるんじゃない」
「うっさい! ほっといて!」
大口を開けて怒ると、チカはけたけたと楽しそうに笑う。
……望むこと全て、叶うわけじゃないよね。
何もかもがいい方向に向かうわけじゃない。きっと、あたしには見せないだけで、泣いて苦しんでる時もあるんだと思う。
だけどチカは、笑ってる。
高校生になって、勉強も頑張ってバイトもしながら、威光のメンバーとして活動してる。
立派だと褒めてみるのもいいかもしれないけど、それはあたしの役割ではない気がして。だからこそ、あたしは日常でチカと関わり続けてる。
「あ、予鈴」
休み時間の終わりが近いことを告げる音がスピーカーから流れると、チカは少し溜め息を吐いた。
「あと1時間だけじゃん。頑張りなよ」
「んー。じゃあまたね。祠稀たちにもよろしく。あと、宙くんにも」
そう言って立ち上がったチカは、軽く手を振りながら教室を出て行った。