僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
春風駘蕩
◆Side:彗
今年の春は暖かい日が多くて、そのたび眠気に襲われる。気温もだけど、雰囲気も、街並みも、俺には湯たんぽみたいに感じていた。
春の昼下がり。日曜日の今日もリビングのテーブルに頬杖をついて、うとうと……。
「桜も散り始めたねぇ」
「……んー」
「この前のお花見、遊志先輩と大雅先輩も来て、楽しかったね」
「ねー……」
「……彗、横になったら?」
隣でパソコンと睨めっこしていた有須が、控えめな声で言う。凪と祠稀は一緒にどこかへ出かけてしまって、広いリビングにふたりきり。
……最近、凪と祠稀はいつも2人で出かけてく。
「……デートかな?」
「え? んっと、待ってね……あ、凪と祠稀?」
うん、と言わずに頷くと、有須はパソコンに置いていた手を膝に乗せ、困ったように笑った。
「多分、違うと思うよ。祠稀にとってはそうかもしれないけど」
そうだよね。祠稀、頑張るなぁ……凪は、手強いからなぁ……。
何ひとつ口に出さずに、ふとパソコンの横に置かれた紙が目に入る。有須の進路希望調査書だ。
「あ、今ね。気になってた学校のこと調べてたの」
凪から借りたパソコンを指差す有須はそう言って、俺は頬杖を解いて画面を覗く。
「資料請求しようと思って」
「……専門?」
パソコン画面には、栄養専門学校という大きな文字があった。
……有須の成績なら、そこそこ上の大学を狙えるのに。
「栄養士になりたいなって、思ってるんだ」
「……」
「他にも気になる職業はあるんだけど……自分の体のこともあるし、食は一生付き合っていくものでしょ? だからちゃんと、勉強してみたいなって」
自分の両手を合わせたり、指を絡ませたり、照れくさそうに話す有須の横顔に、自然と口の端が上がった。
同時に少し胸が痛んだのは、気のせいじゃない。
「この専門は、県外?」
「あ、うん……実家のほう。こっちだと短大しかなくて……専門のほうがいいなって思ってるから」
心なしか小さくなった有須の声にチクリ、また胸が痛む。