僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「やだ……」

「え?」


聞こえなかったのか、聞き返してくる有須の顔を見ながら、思ったことを口にした。


「離れるの、やだな」

「……」


みるみる内に顔に熱が集まっていく有須。そこまで?と思うくらいには、真っ赤になってる。


本人も自覚してるみたいで、パッと俺から視線を外してしまった。


「え、えっと……あの、う、嬉しいけど……その……」


どうしよう、どうしよう、って思ってるのが俺にまで伝わる。


そろそろ湯気でも出るんじゃないかと思うほど、林檎みたいに赤い有須の頬。


俺はあぐらを掻いたまま、そこに口付けた。


「……」
「……」


10センチほど離れたままでいると、有須の視線がやっと俺に向けられる。


……真っ赤。なのに、眼が潤んで、艶やかで、魅入ってしまう。


開いた距離、わずか10センチ。縮んだ距離、同じく10センチ。

唇に触れて、1、2、3、4秒。


再び離れて合った有須の目は、大きく見開かれていた。



「……しちゃった」


そう言うと、有須は爆発したみたいに赤くなって、仰け反る。


「な、なな、何!?」


両手で口を押さえる有須に首を捻って、ダメだったかなと思う。


「……かわいいなぁ……と、思って」


「そうじゃねぇだろ!!」


バーン!とリビングへ繋がる唯一のドアが押し開けられ、祠稀と凪が入ってきた。


「お前っ、そこは、ちげーだろ! もっと他に! 言うことあるだろ!」


わなわなと体を震わせて、祠稀は両の手の平を上に向けて指で何かを掴もうとしてる。


「な、なん……っいつ帰ってきたの!?」


驚く有須に対して、凪は髪を邪魔そうに内から外へ払うと、呆れた顔をした。


「いつって、ほんの3分前くらい? ちょっと足を忍ばせたら気付いてないみたいだったから、覗こーぜって、祠稀が」

「お前だって乗り気だったじゃねぇか! つーか、なんで彗はそんなに平然としてんだよっ」

「……かくれんぼしてたんでしょ?」


「してねえ!」って怒鳴る祠稀を、不思議だなぁと思う。


じゃあなんで隠れてたんだろ……。
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