僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「彗ってば、あたしたちに気付いてたのに有須にキスするなんて」
「きゃーー!! やだもう! やめて!」
ソファーに顔を突っ込んだ有須は、耳まで真っ赤だ。
そんな有須を見て、ソファーの背に手を乗せる凪と祠稀は楽しそう。口の端が上がりっぱなし。
「今日は赤飯にしましょうか、祠稀くん」
「それがいいな。たんと祝ってやろうぜ、おかーさん」
「ちょっと祠稀く~ん? それ、老けてるって言ってる? ハゲろ!」
「イッテェ! 髪掴むなバカが!」
……仲いいな。
さっきまで楽しそうだったふたりはギャーギャーと喧嘩を始めてしまって、いつも通りほっとくことにした。
喧嘩の仲裁役である有須がソファーに顔を埋めたままだから、俺にはどうしようもない。
主に小さい背中を見つめていると、少しだけ有須が動いた。
あまりにもうるさいふたりの喧嘩が、ほっとけなくなったらしい。顔を上げた有須は喧嘩する凪と祠稀を見てから、ちらりと隣にいる俺に視線を移した。
赤からピンクに変わった頬は、まだかわいい。
「……彗」
小さくて聞き取り辛かったけど、唇の動きで名前を呼ばれたことは分かった。
返事の代わりに首を傾げると、柔らかかった有須の唇が動く。
「好き……です」
「……」
目を丸くさせると、有須はまた徐々に頬を赤く染めた。だけど俯かない。目も逸らさない。
体を強張らせて、緊張してるのか少し震えて、俺だけを見てる。
一応ソファーが壁を作ってくれてるけど、未だ横で言い争ったままの凪と祠稀。
同じ空間にいるのに、変な光景だなとか。なんでこうなったんだっけ、とか。
いろいろ思うことはあったんだけど、結果おかしくなって笑ってしまった。
「ははっ! うん、俺も好き」
俺が声を出して笑ったことで、祠稀と凪の喧嘩が止まり、有須を含む3人の視線が集中する。
けど、俺の目の前にいるのは有須だけ。凪以外に初めて、深く関わった子。初めて、守りたいと思った女の子。
凪といる時、祠稀といる時とは少し違う感情が湧きあがる。
有須と一緒にいると安心するけど、それ以上に眩しく、愛しく思っていた。