僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「幸せ」
へらりと笑えば、また3人の視線が自分に集中した。
凪が微笑んだのも分かったし、祠稀も口の端を上げながら煙草に火をつける。有須は視線を泳がせてから、俺の膝を人差し指で2回突っついた。
「あ、あたしも……」
「……幸せ?」
「うんっ」
強く頷いた有須は、満面の笑みを見せてくれる。
かわいいなぁ、と思って有須に近付いた顔は、大きな手によって止められてしまった。
「はいダメー! お前は恥じらいってもんを知らねぇのか! 人前で何しようとしてんだ!」
床に座っていた俺は、祠稀によって強制的に有須から引き離される。
同じように有須も……いや、有須のほうから凪にすり寄ってる。助けを求めるみたいに。
「……なんで……?」
「なんでじゃねぇよバカか!」
眉を下げる俺は祠稀の隣に座って、ちょっと悲しい気持ちになる。
「あのねぇ、彗。自分のことばっかじゃなくて、有須のことも考えなさいよ。人前で二度もキスなんかされたら、有須、恥ずかしさのあまり倒れるよ?」
抱き付いてきた有須を宥めるように、自分の隣に座らせた凪。
ソファーには祠稀、俺、ちょっと隙間ができて有須、凪の4人が並ぶ。
「……じゃあ、ふたりきりならいいの?」
「もうお前、ハァ……早くくっつけと思ってたけど、それはそれでウザくなってきたな」
「やっだ祠稀く~ん。それ、僻みって言うんだよ?」
「じゃあ凪、お前俺の彼女になる?」
祠稀の言葉に凪の笑顔が固まる。俺と有須はそんな凪を見つめるけど、当の本人はすぐに鼻で笑ってしまった。
「なりませんけど?」
……ドンマイだよ、祠稀。
「上等だよ凪、お前……」
「さーって! 今日は、ふたりのお祝い的な赤飯にしようね!」
「聞けっ!」
パンッと手を叩いて話を終わらせた凪と祠稀が、俺と有須を挟んでまた騒ぎ始める。
何もこんな時まで喧嘩しなくてもいいのにと思うけど、まぁいいかとも思う。
「ほっとく?」
「……ふふ、うん。今日はそうしようか、な!?」
「……」
有須の顔面に、凪が力任せに掴んだクッションが当たり、一気にリビングが静まった。