僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「もうっ! 凪も祠稀も! 喧嘩しちゃダメ!」

「ごめんごめん、まさか当たるとは思わなくて」


ソファーの上に立っていた凪は、床に片足を下ろしながら苦笑い。有須は少しむつけながらも、それ以上怒ることはなかった。


……やっぱり有須は、仲裁役がピッタリだよね。


「はー。喉乾いた」


言いながらソファーから離れた凪が「あ」と振り向くと、バルコニーを指差した。


「あたし夕飯の買い出し行ってくるから、彗と祠稀、洗濯物取り込んどいてね」

「あ、あたしやるよ!」

「えー。一緒に買い出し行こうよ。積もる話もありますし?」


楽しげに口の話を上げる凪に、有須はまるで命の危険を察知した小動物みたいになる。


「ね。行くよね?」

「………行きます」


有無を言わせぬ圧力を持った凪の声と笑顔に、有須は頷くほかなくて、重い腰を上げた。


「んじゃ、あとよろしくー」

「……いってらっしゃい」


ものすごく楽しそうな凪と怯えにも似た負のオーラを纏う有須を見送って、リビングには俺と祠稀のふたりだけ。


「女って好きだよなー。恋バナ」


玄関のドアが閉まる音がすると、祠稀がそう言って立ち上がりバルコニーへ向かった。


俺も続くと、干された洗濯物が春風を受けて揺れている。


「あー。いい、いい。お前はそっちで受け取る係。ほれ」


バルコニーに足を踏み入れようとすると、祠稀はバサッと乾いたワイシャツを投げてきた。


「……たたむのが嫌なだけでしょ」

「バレたか」


ニヤリと意地悪く言う祠稀に呆れながら、バルコニーを前にして床に座る。


次々と祠稀が床に投げ捨てる洗濯物を取っては畳んで、その繰り返し。


柔軟剤が使われたバスタオルを畳んでいると、思わず枕代わりにして寝たくなった。開け放たれた窓から流れ込んでくる風が、気持ちいい。


「そういや俺、車の免許取ろうと思うんだけど。彗は? 6月誕生日だろ?」


最後の洗濯物を取り込んだ祠稀は網戸だけ閉めて、俺の近くに腰かける。


……免許……あんまり考えたことなかったな。
< 771 / 812 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop