僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「もうっ! 凪も祠稀も! 喧嘩しちゃダメ!」
「ごめんごめん、まさか当たるとは思わなくて」
ソファーの上に立っていた凪は、床に片足を下ろしながら苦笑い。有須は少しむつけながらも、それ以上怒ることはなかった。
……やっぱり有須は、仲裁役がピッタリだよね。
「はー。喉乾いた」
言いながらソファーから離れた凪が「あ」と振り向くと、バルコニーを指差した。
「あたし夕飯の買い出し行ってくるから、彗と祠稀、洗濯物取り込んどいてね」
「あ、あたしやるよ!」
「えー。一緒に買い出し行こうよ。積もる話もありますし?」
楽しげに口の話を上げる凪に、有須はまるで命の危険を察知した小動物みたいになる。
「ね。行くよね?」
「………行きます」
有無を言わせぬ圧力を持った凪の声と笑顔に、有須は頷くほかなくて、重い腰を上げた。
「んじゃ、あとよろしくー」
「……いってらっしゃい」
ものすごく楽しそうな凪と怯えにも似た負のオーラを纏う有須を見送って、リビングには俺と祠稀のふたりだけ。
「女って好きだよなー。恋バナ」
玄関のドアが閉まる音がすると、祠稀がそう言って立ち上がりバルコニーへ向かった。
俺も続くと、干された洗濯物が春風を受けて揺れている。
「あー。いい、いい。お前はそっちで受け取る係。ほれ」
バルコニーに足を踏み入れようとすると、祠稀はバサッと乾いたワイシャツを投げてきた。
「……たたむのが嫌なだけでしょ」
「バレたか」
ニヤリと意地悪く言う祠稀に呆れながら、バルコニーを前にして床に座る。
次々と祠稀が床に投げ捨てる洗濯物を取っては畳んで、その繰り返し。
柔軟剤が使われたバスタオルを畳んでいると、思わず枕代わりにして寝たくなった。開け放たれた窓から流れ込んでくる風が、気持ちいい。
「そういや俺、車の免許取ろうと思うんだけど。彗は? 6月誕生日だろ?」
最後の洗濯物を取り込んだ祠稀は網戸だけ閉めて、俺の近くに腰かける。
……免許……あんまり考えたことなかったな。