僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


後ろにあるベッドに背をつけて、溜め息。


ふいに目に入ったのは、丸見えの切り傷。左手首に5センチほど拡がる無数の傷痕は、そう簡単に消えるものじゃない。


血が止まり瘡蓋が取れても、肌より少し白く、盛り上がった傷痕が残る。


……リスカしてたことに、これっぽちも後悔はないと言ったら嘘になる。自分でも気持ち悪いと、醜いと思っていた。


なんでリスカなんてしたんだと聞かれても、明確で納得してもらえるような理由は言えないけど。


ただ切らなければ、血が流れなければ、生きることがとても、とても、つらかった。


過去は消せない。消えない傷とは、共に生きなければならない。


だから恥じるのを、やめた。


学校でも、社会人になったとしても、俺はこれを隠す気はないし、見せびらかしたいわけでもない。


気味悪がって近付かない人もいれば、見て見ぬふりをする人もいれば、興味本位で聞いてくる人もいた。


この先ずっとそうなんだと、それでもいいと思う。


『ねぇ、彗? この傷はさ……彗が生きた証だよ』

『絶対負けんな。負けそうになったら言え。助けてやっから』

『過去を受け入れて、今を、明日のために生きてくんでしょう?』


幾度となく、暗闇から引っ張り上げてくれる人がいた。


ありがとう。きっと、何度言っても足りないだろうけど……。


正直な気持ちを心の真ん中に置いて、自分の道を切り開く。そうして生きるのが、今の俺に出来るいちばんの恩返しだから。


生まれた意味、生きる意味。


そっと誰かに、何かに、自分に忍ばせて、今日も笑うよ。




「すーいー! ゲームやんねー?」


祠稀の声に顔を上げ、少し悩んでから立ち上がる。


「負けたほうが?」


言いながらリビングへ戻ると、既に準備を始めていた祠稀が「風呂掃除と皿洗い」と罰ゲームを決めた。


「お前今日、幸せボケの日だからハンデ付きな」

「え……何それずるい」

「拒否権ナーシ!」


……ボッコボコにしよう。


そう思いながらコントローラーを握って、凪と有須が帰ってくるまで対戦ゲームをし続けた。



4人がそろうと、騒がしい日曜日。幸せな日曜日。だけど今日はいつもとちょっと違う、特別な日。



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