僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「じゃあ俺、もう帰るわ」
立ち上がると、リュウとユナが意味ありげな笑みを向けてくる。
「あの祠稀が、真面目に受験勉強……プッ」
「リュウ、笑ったら失礼だよ……祠稀、一生懸命頑張ってるのに」
「だー! うるせぇな! これでも合格圏内なんだよ! ナメんな!」
ニヤニヤ笑うリュウは「はいはい」と適当にあしらってくるし、ユナはなぜか俺の足にしがみついてくるし。
居心地悪い。いや、悪くはないけど、むず痒くなる。
「ま、祠稀はもう卒業だしな」
「は? 卒業はまだ先――…」
眉を寄せてから、すぐに高校のことを言ってるんじゃないと分かった。リュウが言った卒業は、威光からってこと。
「なんで……別にまだっ……!」
「あー! 分かった、分かってる! 追い出そうってわけじゃねぇよ。ただもう、必要ないだろって話だよ」
必要ないなんて、そんなわけねぇ。威光は俺の一部で大事なもんだ。
「そもそも、昔ほど威光に顔出すことはなくなっただろ。それが悪いって言ってんじゃねぇ。いいことだと思うよ、俺は」
「――…」
「この街に来る子供は変わらずいるけど、悪い奴は減った。だから祠稀が必要なくなったってことじゃねぇよ? お前は、お前が選んだ道を行くべきだって言ってんだ」
そんなこと、言われなくたって……。
グッと口を噤む俺に、リュウは少し困ったように笑う。
「ヒカリも俺もプロの打ち師で、それで生計立ててくのが俺らの生き方だったけど。お前は違うだろ。夢があって、それに向かって努力して……俺たちが子供たちに望んでたこと、そのまんまだよ。今の祠稀は」
言い聞かせるように、ヒカリの代わりに告げるみたいに、リュウは話し続ける。
「いいんだよ、祠稀。ずっと、一生、威光に居続けなくたって。ヒカリがいなくなって、お前が威光を再建したように、お前がいなくなっても、誰かが継ぐ」
分かってる。自分が前ほど威光にのめり込まなくなったことも、俺が抜けても誰かが意思を継いでくれることも。
いつか、威光が消えてしまうことも。
それは悪いことじゃない。きっと、いいことだ。