僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
愛しみの環
◆Side:有須
「うーわー! 見事に空っぽやなぁ~!」
リビングに入るなりそう言ったのは遊志先輩で、その後ろには大雅先輩。
「うーわーじゃ、ねぇよ。来るのおせぇ!」
「ちょ、雑巾投げるとかありえへん!」
祠稀が投げ付けた雑巾を避けた遊志先輩に「邪魔」と言いながら、大雅先輩が窓拭き用の洗剤スプレーを持ったあたしの目の前にやってくる。
「ごめんね、遅くなって。これ差し入れ」
「あ、ありがとうございます! えっと、今、手が汚くて……!」
「ああ、うん。じゃあ、そこ置いとくね」
言いながら、大雅先輩はキッチンと対面式になっているダイニングテーブルへ脚を向けた。
「「疲れたーっ」」
男女の声をハモらせながら帰ってきたのは凪とチカで、ほんの小一時間前まで持っていた両手いっぱいの箱菓子はなくなっている。
「お疲れさまっ」
「ほんとだよ。なんで僕まで挨拶まわりに付き合わされなきゃいけないのさ」
げんなりした様子で以前はソファーがあった場所にチカが座ると、後ろでは遊志先輩が凪にちょっかいを出していた。
「怪しまれなかったか?」
「弟さん?っては言われたけどね。どう見たって似てないでしょ」
チカは祠稀にそう返して、ゴロンと床に寝転がる。そのまま頬杖をつくと、バルコニーにいる彗を指差した。
彗はリビングに背を向け、あぐらを掻きながら窓に寄りかかっている。
「あそこで何やってんの? 彗」
「ああ、風呂掃除してたらシャワーの水かかって、服乾かし……っていうか寝てねぇか!? おい! 彗!」
祠稀の声にビクッと大げさに肩を跳ねさせた彗は、荒い足音に顔を上げた。
見上げた先にはきっと、祠稀の怒った顔があるんだろうなぁ……。
あれから時は流れて、季節は再び春になった。
今日は3年間お世話になった家の大掃除の日。
リビングはもちろん、キッチンも洗面所も4つの部屋も、空っぽだ。
あるのは7人の靴と、ダイニングテーブルに置かれたあたしと凪の鞄、掃除道具、大雅先輩がくれた差し入れくらい。