僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「凪ちゃんがひとり暮らしで、あとはみんな実家暮らしに戻るんだっけ?」
「あ……はい。祠稀は一時だけで、後々ひとり暮らしするって言ってましたよ」
高校を卒業してから割とすぐ、祠稀の合格発表があった。その1週間後に彗、そのまた約1週間後に凪の合格発表。
結果はみんな、合格。
今月は緊張と不安と、喜びと幸せの繰り返しだった。あたしは推薦入試で誰より早く受かっていたから、なおさら。
「寂しいって、顔に出てるよ」
「え、え!? そんなことっ、は……」
ある、だろうなぁ……。
両手で頬を包んで俯きがちに溜め息を吐くと、ぽんっと背中を叩かれる。
「ごめん、ちょっと意地悪したかな。行こう」
リビングを出た大雅先輩の背中から自分の手の中にある鍵を見て、不確かな感情に眉を下げた。
じわり、じわり。至る所から滲み出る感情は寂しさか、切なさか。何に対して、誰に対して、滲んでは拡がるんだろう。
記憶が時に、あたしを過去に連れて行く。
「……」
ぎゅっと鍵を握り締め、大雅先輩の後を追った。
靴を履いていた大雅先輩はドアを開けて、あたしがショートブーツを履くのを待っていてくれる。
「……あの」
「何?」
「……なんでもないです……」
言いながら玄関の外へ出ると、大雅先輩が支えるのをやめたドアが閉まった。
鍵をかけ、どちらからともなく歩き出す。ふたり並んで歩くのは久しぶりだけど、何度かあったことだ。
それでも今思い出すのは、あの時のこと。
「有須、今何か気にしてるでしょ」
「えっ!?」
エレベーターの前で立ち止まってすぐに、大雅先輩がボタンを押しながら言う。
「なんでもないって、逆に気になるよ?」
にこりと爽やかな笑顔と優しい声は、他の誰とも違う大雅先輩だけのもので。僅かに感じる程度の威圧感も、依然として含まれてる。
「気にしてるというか……思い出してただけ、です」
自分でも分かるほど、語尾に近付くにつれて小さくなる声。
委縮してるというより、恥ずかしくて。きっと、バカじゃない?って言われるんだろうなって、頭の隅で思った。