僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「思い出してたって、今までの3年間のこと?」
「それもありますけど……あたしたち、けっこう遊志先輩と大雅先輩とも過ごしたなって」
「それは何かイベントがあるたんびに、こっちの予定も聞かずに呼び出されてたからね。主に凪ちゃんと祠稀くんに」
7階までやってきたエレベーターのドアが開くと、大雅先輩は「どうぞ」とあたしを優先してくれる。
「それが今さらどうしたの? もうそんなこともないんだなとか、そういう話?」
ドアが閉まり籠が下降し始めると、急に言葉が重くなった。
憧憬の的を見つけるたび、求め、期待して、それを糧に前へ進んできた自分。
あの頃のあたしが今のあたしを見たら、喜ぶのかな。きっと手放しで喜んで、笑ってるんだろうと思う。
「……楽しかったかなと、思って」
「……」
「す、すいません……自分でもなんで、こんな話になってるのか分からないんですけど……」
憧れていた、友達という関係。恋ができる自分。あたしはあたしでいいんだという、自信。
ひとりでは、見つけられなかった。
「……あたし、きっと忘れたくても、いつか忘れてしまうとしても、忘れられないなって思うことがいくつかあるんです。つらかったことと、幸せだったこと、半分ずつなんですけど」
虐められたこと、過食症になってしまったこと。勇気を出して引っ越してきた日のこと。今まで3年間のこと。あたしには忘れられない記憶で、過去で、思い出なんだ。
「……大雅先輩にも、ありますか?」
「有須ってほんと、お人好しだよね」
間髪を容れずに発した大雅先輩の言葉がグサリと胸に刺さる。
「いつも通り変わらず、逢って話して別れればいいのに。なんでそういうことを聞くんだろうね。よりによって、今日」
下降していく籠の音だけが耳の奥で響いて、何も言えない。本当にその通りで、返す言葉がなかった。
「楽しくなかったよ。君たちといると、不快で、不可解で、不思議で。見てて飽きなかったっていう点では、忘れられないと思うけど」
「……それは、つまり……」
どっちなんだろう。
口元に笑みを浮かべる大雅先輩を黙って見上げていると、エレベーターが止まりドアが開く。