僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「あ、鍵! みんな合い鍵持ってきたよね?」


ドクン、と心臓が早鐘を打つのと同時に、祠稀の「ああ」と言う冷静な声。


「回収しまーす。はいっ」


水を掬うように両手を前に出した凪は笑顔だ。


デニムのポケットから鍵を取り出した祠稀は、鍵とデニムを繋げていたキーチェーンを外して、ぽとりと凪の手の平へ落とす。


――分かってる。


あたしはしゃがみ込んで、床に置いた鞄を開けた。


すぐ見つけた鍵にはキャラクターのぬいぐるみや、スワロフスキーで飾られたリボンやハートのキーホルダーが付いてる。どれも少し汚れて錆びるたび、変えてきたもの。


「彗ってさ……そんな何も付けないで、よく失くさなかったよね」

「……物持ちいいから?」


彗の鍵が祠稀の鍵にぶつかった音がして、あたしの胃は捻じれるように痛くなる。


胃なのか胸なのか、本当はもう、どっちでもいいんだけれど。


――気付いてる。


カチャカチャとひとつずつキーホルダーを取っていくと、目の前に凪がしゃがみ込んだ。見える、ふたつの鍵。見える、凪の笑顔。


「有須はいつも、かわいいの付けてたよね」

「あたしは、失くしちゃうほうだから」


答えになってるのかなってないのか、曖昧な返事をして、最後のキーホルダーを取り外した。


ぽとりと鞄の中に落ちていったキーホルダー。ぽとりと凪の手に落とさなければいけない鍵。


――分かってる。気付いてる。


これを渡してしまえば、ここから去らなければいけないこと。みんな笑顔で、さよならと別れていくんだってこと。


あたしは凪の手の平から数センチ離れた場所で、鍵を持った手を止めてしまった。


置きたくない。渡したくない。離さなきゃいけない。


「……有須」


凪の声に、我慢していた涙が溢れた。


……嫌だ。嫌だよ。


まだ一緒にいたい。わがままだと分かっているけど。


ずっと一緒にいたい。叶わないと分かっているけど。


離れたくない。自分の夢を捨てるわけにはいかないけど。


嫌だよ。嫌だ。
足りないよ。まだ、足りない。


もっと、ずっと、まだ、一緒にいたかった。


1秒でも、1分でも長く。それだけでいいから。近くにいたという思い出を、あたしにちょうだい。

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