僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
『お、おはようございますっ! あの、凪さんのお宅で間違いないですか?』
『……いらっしゃい。待ってたよ』
懐かしい。
『一緒にいて……いいの?』
『いいの?ってか、強制じゃん?』
懐かしい。
思い出が、涙のように後から後から溢れては、ぼやけて弾ける。
「……有須」
「っごめん……」
手放せずにいる鍵を強く握り締め、胸に抱いた。そのままペタンと床に座り込んで、涙を隠すように俯く。
――笑ってようって、決めたのに。
全員の進路が決まった時も。卒業式の日も。全ての荷物を運び出した時も。
1週間ぶりに逢った、今日だって。最後の最後まで、笑っていようと決めていたのに。
「やっぱり、有須がいちばんに泣いちゃったねぇ……」
くすりと笑った凪の声に、恐る恐る顔を上げた。頬を滑ることなく一直線に床へ落ちた涙が、凪の輪郭を鮮明にさせる。
「つられちゃった」
そう言った凪はあたしと同じように涙を流していたけど、泣きながら、笑っていた。
グッと、また浮かんだ涙を堪えたくて震える唇を噛んでも、大粒の涙が零れ落ちる。
「凪……あた、し……っ」
「……うん。何?」
あたしは、離れたくない。まだ一緒にいたい。それは本当だけど、伝えるべきなのはもっと違うことなのに。
鍵を握り締めるあたしの手にそっと触れた凪の手が、温かい。
「……楽しかった」
だからあたしも凪の手を握り返して、温もりを伝えた。涙が視界を掠め取っても、凪の目を見て、言葉を伝えた。
「楽しかった……すごく、幸せだった……っ!」
胸の中には溢れるほどの思い出が詰まってる。
生きて行く上での喜びや痛みが、幾重にも重なり合っているけれど。それでもあたしは幸せだったと言える。
凪がいたから。彗が、祠稀が、いてくれたから。
「あたしもだよ、有須。……幸せをくれて、ありがとう」
ちっぽけな涙が彩られ、こんなに哀しい日をまるで宝石のように、凪が光に変えていく。
さようなら。楽しかった日々。
ありがとう。幸せな日々を。
みんなに出逢えたことが、あたしのいちばんの宝物。