僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「――じゃあ、行こっか」
あたしの涙が引くまで、凪の涙が乾くまで何を話すわけでもなく、彗と祠稀も黙って近くに座っていた。
小さくできていた4人の輪は、凪が立ち上がったことで欠ける。
凪は3人分の鍵を見つめてから、鞄の中へしまい込んだ。あたしも鞄を持って立ち上がり、少し熱を持った瞼に触れる。
凪が、祠稀が、あたしが、彗が、順にリビングを出て、玄関で各々の靴を履いた。
全員が供用廊下へ出ると凪が鍵を取り出して、ガチャンと鍵をかける。
滲んだ感情に、名前など付けられない。呼び方さえ分からない。それはきっと、みんな同じだろうなって思う。
先に歩き出した凪を追ってその手を掴むと、驚きを見せた凪はすぐに笑った。
「あたしでいいの? 手、繋ぎたいのは彗かもよ?」
ふたりで後ろを振り返ると、彗は首を捻って、祠稀は眉を寄せる。
「……繋ぐ?」
「いや、なんで俺だよ! 嫌すぎるわ!」
彗が差し出した手をはたき落とす祠稀にあたしと凪は笑って、ちょうど来たエレベーターに視線を移した。
「あら……こんばんは」
エレベーターから出てきたのは同じ階に住む主婦の人で、凪が「こんばんは」と返すと、みんな軽く頭を下げた。
「そろってお出かけですか? 本当に、仲良しなんですねぇ」
「あはは! ありがとうございます。重そうですね、お気をつけて」
すれ違いざまに会話をして、凪は主婦が持つ買い物袋を指差しながら笑う。
ドアが閉まる前にもう一度会釈して、エレベーターの籠の中は4人だけになった。瞬間、響く笑い声。
「おかしくね? なんでお出かけなんだよっ」
「いやぁ……引っ越すって挨拶はしてたけど、今日とは言わなかったからねぇ」
祠稀と凪が笑うのは、少し胸が温かくなったからかな。
「仲良しだって」
そう彗も言ったから、あたしも頬笑みを返した。
「……ね。そう見てもらえて、嬉しいね」
深く関わりのない人にも、あたしたち4人は仲良く見えるのかと思うと、すごく、嬉しいね。